お恥ずかしい話ですが、冬山では数々の失敗を重ねてきました。安全のために最も重要といえる「服装」での失敗は、命とりにもなります。ありがちですが「とりあえずこれで大丈夫でしょ」と油断して、現地でしっぺ返しをくらった経験から学んだことは数知れず。 同じ過ちを犯さないで済むように、私の失敗レイヤリングを共有します。ぜひ自分のウェアで想像してみてください。
3シーズンの感覚が抜けずに痛い目を見た
今回の失敗談は、忘れ物をしたとか、何も考えなかったというような、うっかりミスではありません。自分なりに考えて行ったのに起きたものです。考えたものの、3シーズンのいつもの感覚がどこかに残っていて、これで大丈夫だろうと思ってしまった。冬山の想像力が足りなかった、というわけです。
低山で失敗:想像以上に温まらない
冬になると寒さの質が変わります。ちょっと上に羽織るくらいでは全く温まりません。
初めての冬山は登山2年目の1月頃。普段登り慣れた神奈川県の丹沢でした。まだ本格的な山の寒さを体感したことがなく、秋と同じでいつもの行動用のミドルレイヤーに薄手のダウンジャケットを携行しましたが、これが失敗でした。
行動中は温かくても、少しでも止まると一気に芯から冷える寒さが襲ってきて、薄手のダウンでは保温力が全然足りません。そして冷えてしまうと、多少行動してもなかなか温まらない。夏は灼熱とも形容できるほど暑い日のある丹沢なのに、こうも違うのかという真冬の厳しい寒さ。しかもその日は降雪というおまけ付き。寒くてたまらずトイレに逃げ込んだのは今でも覚えています。
冬は薄手ではなく保温力のあるダウンジャケットが必須と学んだ若い頃の思い出です。
急いで失敗:想像以上に汗で冷える
ウェアの内側で身体を冷やす汗は、厳冬期では絶対に避けなければならない要素のひとつです。
冬の南アルプス、地蔵岳を目指していた時、出発時間の遅れと豪雪によるラッセルで急ぐあまり、気が付くと汗びっしょり。登山3年目頃の2月、若気の至りだったのか、アウターは冬用ウェアでばっちり着こんでいたものの、インナーに気が回っていませんでした。発汗や放熱を考慮したインナー選びが最も大切だったのに。
行動を止めると一気に冷えるあの感覚は、こうして死んでいくのかと恐怖を覚えるほど。冷凍庫にいるのと同じ環境で服を脱いで着替える勇気はなく、なんとか避難小屋まで耐えて着替え、助かったと心からホッとしました。
この時は、行程の判断ミスが原因でした。予定時間には避難小屋に到着できる見込みが薄かったので、途中のビバークポイントで1泊という判断ができたはずですが、パーティの中で「このまま行ける」という雰囲気が覆らず、行程を強引に押し通してしまったのです。その結果、急ぐあまりに汗だくになってしまったというわけです。
もう少し行動時間が長かったら、遭難して避難小屋に辿り着かなかったら、と思うと、難を逃れたのは不幸中の幸いでした。
想定外で失敗:想像以上に風で冷える
いまだに苦手なのが、強風による体温低下です。
登山5年目頃の12月、そばにいる人の声も聞こえないほどの風に、奥秩父、金峰山付近の稜線で見舞われたとき。風がウェアを突き抜けていくのを感じました。
強風対策はあまり行ったことがなく、未熟なことに風速の予報を注意深く見ていなかったのは大きな敗因で、ソフトシェルを着ていました。稜線ではより防風性の高いウェアを選択しても良かったと思います。
また、樹林帯から稜線に出るところなどコース中で気象が変化するポイントや、雨・風・気温など天候を総合的に熟慮すべきであったと反省の山行となりました。この日は金峰山頂上に立った途端、早々に下山、景色を楽しむ間もなく樹林帯に逃げ込みました。
夏は時に涼を与えてくれる風が、冬は正に死神の羽衣。風は体感温度を一気に下げるというのを身をもって知った体験でした。
冬山の服装は「全てドライに保つ」ことがカギ
数々の失敗から、冬山を楽しむためには、まずは自分自身を快適な環境に置くことがとても大切だと学びました。快適であるためには、ドライであること。冬は防寒に意識がいきがちですが、乾いた状態を保つことが全てのレイヤリングの基本となることを知ったのです。
汗冷えを防ぐベースレイヤー
ベースレイヤーとは、いわゆるアンダーウェア。インナーとも言います。冬山では前述の南アルプスの様に、身体をドライに保つことがとにかく大事です。街では保温力が優先されますが、登山では汗を発散していく性能も求められます。
登山、アウトドア専門店に行けば、専用のアンダーウェアが売られています。さらにその中で、夏は薄手の発汗機能が高いもの、冬は厚手の保温機能が高いものなど、種類を変えたり、二枚重ねたりという調整を考えます。
保温するミドルレイヤー
身体が出した熱を閉じ込めるのがミドルレイヤー。季節に応じて厚め・薄めの動きやすいジャケットとか、フリースなどを想像すると分かりやすいです。夏山では標高の高いところや朝にはアウターにもなるので、通年で使えるものが多いです。
金峰山の様な強風下では体温が一気に奪われていくので、防風性の高いアウターで身を守りつつ、内部にミドルレイヤーとしてフリースや薄手のダウンを着ていると体温低下を防止できます。
このミドルレイヤーは、素材や機能性もですが、脱いだり着たりするタイミングが重要。汗をかかない状態をキープするために、行動中もこまめに脱ぎ着を考え続ける必要があります。
雨、風、雪から身を守るアウターレイヤー
冬山で一番特徴的なのが、このアウターレイヤーです。ハードシェルとも言います。風雨から守るのはレインウェアと共通ですが「雪」から守る設計がされています。表面がザラザラとしていて、雪で滑っても止まりやくなっており、内側は雪が侵入しないようビブが付いていたりしています。
これはどの失敗談にも共通しますが、身体をドライに保つには発汗対策だけでなく、外からの雨や雪からも身体を守らなけれならないので、雪山でハードシェルは必ず用意します。
但しこれはあくまで「雪山」の場合です。冬山なら全てというわけではなく、元から積雪もなく雨が想定される低山では、レインウェアの方が適しています。
レイヤリングを覚えれば冬山が楽しくなる
数えきれない失敗を犯してきた私ですが、経験から学び、今は雪山でも雪のない低山でも、快適に冬の登山を楽しんでいます。
12月中旬、雪のない晴れの高尾山
年に何度か積雪もありますが、基本的には雪のない冬の登山が楽しめることが多い高尾山。
画像は2019年12月中旬の全く雪がない日で、化繊系のプルオーバーのインナー1枚で行動しました。 前開きのジッパーで 寒い時はしっかり上まで閉めて、時間が経過して暑くなり息苦しさを感じたら開けるなど、ちょっとした体温調整が可能なものは便利です。
これに加えて、調節用にミドルレイヤーとして薄手のジャケット、アウターでソフトシェルを着て行きました。雪のない高尾山なら、アウターはハードシェルではなく、ソフトシェルの様なストレッチ性のあるものがベストです。
もちろん、レインウェアは携行しています。冬場ではウィンドブレーカとしての役割も果たしてくれるので、晴天でも風が強い日など一番上に着ると重宝します。
厳冬期、穏やかな晴れの北アルプス常念岳
常念岳は、頂上稜線に上がるまでの区間と常念乗越と呼ばれる稜線に上がってからの区間に分かれています。強風、滑落の可能性が高くなる常念乗越手前の急登で、ハードシェルが特に活躍してくれました。
この時はベースレイヤーに保温性と発汗機能のある長袖インナーを着て、ミドルレイヤーに軽量のソフトシェル、上下に防水性のある厳冬期用のアウターとパンツで固めました。天候は快晴と読み、日中は陽も出て発汗が懸念されていたので、行動中のウェア選びとしては防寒しすぎず成功といった山行でした。
ちょっと不要だったのが、休憩用のダウンは持参して使用しましたが、さらに無駄にフリースも持ってきてしまい、同じ用途の保温着をダブらせてしまったのは安易でした。
実は下山中ここで、疲れもあり急斜面で滑って滑落してしまうというハプニングがあったのです。結構流されて焦りましたが、ハードシェルは 滑りにくい生地でもあり、堅牢な防水性で、内部も濡れることなく事なきを終えました。これがなかったら恐らくもっとスピードが出て滑り落ち、雪がジャケットやズボンの裾から入り込み、服の中も濡れてしまっていたはずと思うとゾッとします。
まとめ
冬山登山のウェア、初めて購入した時は教科書通りに揃えたものですが、冬山とひとことで言っても状況は全て異なり、「これを着ていれば全て大丈夫」といったものはなく、失敗から学んだことが沢山ありました。 服装ひとつとっても冬山は難しい。でもその奥深さを知るたびに、もっと登りたいという欲は消えず、失敗を重ねながらも経験を積んでいます。
行く前に考え、現場で考え、帰ってからも振り返って考える。考えたら失敗を恐れずに実践する。この繰り返しで、自分にとっての快適な冬山のレイヤリングを見つけてください。