冬山でのテント泊ともなれば、いつも以上にカロリー摂取が必要。温かいものをたくさん食べたいけれど、食材で荷物が重くなるのはできるだけ最小限におさえたい。便利で機能的な食品が増えた今でも、そんなシビアな冬山での食事には、昔から学生山岳部で伝統的に食べられてきた「ぺミカン」が最適なのです。
ぺミカンとは何か?
ぺミカンとは、野菜と肉を炒めてバターやラードなどの動物性油脂で固めた携帯保存食のことであり、冬山登山に使用されることの多い料理です。暖かい季節だとバターやラードが溶けてしまうため、冬以外の季節には向きません。
ぺミカンを作るときは基本的に味付けをせず、現場でルーを合わせればカレーやハヤシライスに、出汁や味噌を入れれば豚汁にと、様々な料理に使用することができます。さらに、現場で食材を切ったり煮込んだりする必要がなく、手間をかけずに料理を作ることができますし、調理済みのため体積が小さくパッキングも楽です。そして何より、普段より脂が多めの高カロリー料理が、極寒の中で疲れた心と体にエネルギーを満たしてくれるのです。
この万能料理ぺミカンは、ネイティブアメリカンが交易の際の携帯保存食として利用していました。当時はシカ肉などにドライフルーツを合わせて作っていたそうです。それがヨーロッパにも伝わると、南極点や北極点を目指す極地探検においても、探検家たちが高カロリーの保存食としてぺミカンを持ち込むようになったそうです。
ぺミカンは、時間短縮、燃料節約、カロリー面などの点で優れていることから、冬山登山においても使用されるようになり、山岳部の学生は今でもよく活用しています。一般登山者の間ではあまり知られていないぺミカンですが、 学生山岳部で継承されていく登山技術の中でぺミカンは食事技術のひとつであり、今でも伝統として受け継がれているのです。
世の中には軽量で機能的な食品が多く出回るようになり、わざわざ事前に手間をかけてぺミカンを作るような必要はないかもしれません。しかし、お金のない学生にとっては、手間はかかっても安くボリュームとカロリーを得られるぺミカンは心強い味方なのです。
冬山での食事の考え方
冬山での行動は、雪や氷など足場の悪さ、寒さなどの要因から、普段の登山よりも体力の消耗が激しくなります。そのため、普段よりもカロリーの高い食事をとらなければ、次第に消耗していってしまいます。
また、冬山では燃料の重要性も高くなります。燃料がないと温かい食事をとることはできませんし、燃料を暖房として使用して、体を温めることもできないからです。冬山で体を冷やしてしまった場合、燃料があるのとないのとでは、助かる可能性に大きく差が出ると思います。その分燃料を多めに持っていけばよいのでは?と思うかもしれませんが、冬山はアイゼンやピッケル、防寒着など、夏山に比べると荷物が多くなるので、そう簡単に燃料を多く持っていくこともできません。そのため、毎回の食事においては、できる限り燃料の消費を抑えたいのです。
ぺミカンは高カロリーであり、事前に火を通してあるため、調理時間も短く済ませることができます。このような理由から、疲弊した体を温め、翌日への英気を養うための場である冬山での夕食には最適なのです。
ぺミカンの作り方
ぺミカンは、簡単に言うと、好みの野菜と肉を適当な大きさに切って、バターかラードで火が通るまで炒めて冷やして固めるだけです。私の場合ぺミカンカレーが好きなので、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、豚バラ肉を入れることが多いです。
- 好みの食材を食べやすい大きさに切る。
- フライパンにラードかバターを落とし、まんべんなく広げる。
- 火の通りにくい食材から中火で炒めていく。電子レンジであらかじめ温めておくと、早く火が通りやすい。
- 徐々にラード(バター)を追加していく。
- 野菜に火が通ったら肉を入れて炒める(最初から入れると肉が固くなってしまうため)。
- 肉に火が通ったら火を止めて、冷めるまでしばらく放置する。
- 常温くらいまで冷めたら、ジップロックやビニール袋などにぺミカンと液体状のラード(バター)を全て流し入れる。
- 冷蔵庫で保存する。冷やせば固まるので冷凍する必要はない。
- 山に持って行き、加熱して好みの味付けをして食べる。
ぺミカンを作っていけば、カレー、ハヤシライス、シチュー、豚汁、うどん等々、様々な料理を手間なく作れるので、長い行程の冬山登山にはもってこいです。ちなみに脂の量も自由なので、決まりはありません。こってりしたものが苦手な方は、脂の量を調節すれば大丈夫です。
「ぺミカンに使用する油はサラダ油ではいけないのか?」と疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。結論を言うと、サラダ油はぺミカンに適していません。その理由は、油の種類による融点(物質の形状が個体から液体に変わる温度)の違いにあります。ラードの融点が40~50℃、バターの融点が28~36℃である一方、大豆油の融点は-8~-10℃、ナタネ油の融点は-20~-24℃であり、一般的なサラダ油の融点は氷点下です。ラードやバターは常温では個体であり、サラダ油は常温では液体であることを思い浮かべれば、わかりやすいと思います。つまり、サラダ油を使用すると、凍らせたとしても、よほど寒い場所でない限りすぐに溶けてしまいます。もしも油がザックの中で漏れたら大惨事です。
まとめ
冬山という環境は厳しいもの。その中で活動する際の食事は重要であり、また山行中の大きな楽しみの一つです。現代では機能的な食品が増え、山の食事に関しては様々な考え方があると思います。しかし、ぺミカンはコストが低く、汎用性が高く、現場で手早く作ることができ、高カロリーでおいしいという、数々のメリットがあります。そんな万能料理ぺミカンを一度試してみてはいかがでしょうか。