日帰りから山小屋泊、そしてテント泊と、楽しみ方が広がるにつれて荷物も増え、それを持てるだけの体力が必要となってきます。日常的なトレーニングが大事ということはわかっていても、それができないから悩ましい。「重い荷物が持てるようになりたい!」という一心で、自分なりに考えて効果のあったトレーニング方法を共有します。
なぜトレーニングをしようと思ったのか
テント泊をするたびに、もっと楽に歩けたら、あの缶詰も、あの缶ビールも、もっと持ってこれたのになあ、重い荷物が持てるようになりたいなあ、と思っていました。
荷物の軽量化は大事ですが、重くても余裕で動ければ問題ないわけです。荷物を減らすのはいつでもできる。何なら今でもやっている。結局のところ、重い荷物が持てるようになるには、体力をつけるしかありません。
そして数年前の冬。その年は屋久島に住んでいたため、雪山に行く機会はないことがわかっていました。このまま冬の間に何もしなかったら、非常にマズイ。屋久島には避難小屋しかないので、泊まりでの登山は必ず寝袋や食材など全て持って行くことになります。春にいきなりへばってしまうことが目に見えていました。
これは今こそトレーニングする時がきたのではないか。
というわけで、ついに立ち上がることにしたのです。よくランナーが大会出場を目標にしていますが「期限の決まった目標」は大事だなと改めて思います。登山の場合「◯◯山に登りたい」と願い事のようにずっと言っている人は多いと思いますが、それを「いつ、◯◯山に登る」と今すぐ言い換えることをおすすめします。
自分の現状を把握する
まずトレーニングをするにあたり、現在の自分を振り返ってみました。敵を攻略するには己を知ることから始めよう。といっても簡単に「歩く速さ、持てる重さ、体調」について思いついたことです。
- ひとりで日帰りや小屋泊なら、コースタイムで普通に歩ける。
- 10kgくらいの荷物でのテント泊は大丈夫。但し団体でのゆっくりペースなので、早く歩けるかはわからない。
- 膝や腰など痛いところや故障は何もない。
- 月に2~3回は継続的に登山をしている。日帰りも泊まりも行く。
これといった特徴もありませんが、体に痛みや不安がないというのは、トレーニングするにあたってのメリットなのかもしれません。
目標を設定する
次は目標設定として「登山で何ができるようになりたいのか」を考えてみました。それによって何をするかが変わってくると思ったからです。
体力づくりといえばランニング、という定番トレーニングもありますが、今まで漠然とトライして続かなかった経験もあり、本当に何よりもランニングがいいのかハッキリさせて、必要ならば今回こそやってやろうじゃないか、というわけです。
私の場合は「重い荷物が持てるようになりたい!」が最優先。結果がわかりやすいよう具体的に考え直すと「4月までに20kgの荷物を背負ってコースタイムで歩けるようになる!」、、、かな?
数字で表してみると、これできたら大体のことは楽ちんかも!すごいかも!と自分の姿がイメージできるようになり、何もまだやっていないのに、なんだかウキウキしてやる気が出てきます。単純ですが本当にそうでした。
なんとなく体力づくりのために、嫌々ながらランニングをしている方もいると思いますが、「何がどうなったら嬉しいのか」を一点集中で本気で考え直してみることを、超絶おすすめします。
トレーニングの内容を決める
次に、目標を達成するために何をするべきかを考えました。
登山のトレーニングは何より登山すること、という強力な説があります。屋久島は山が近く、車で1時間くらいで主な登山口まで行けますので、メインは山でのトレーニングとしました。もちろん日常的な家でのトレーニングと、定期的な山でのトレーニング、両方できるのが理想的。しかし両方だとこれまた続く気がしないので、まずは片方にします。もし車がなかったら、交通機関が不便なので、家でのトレーニングにしていたと思います。
では山で何をするのか。となるとシンプルに「いつもより重い荷物を背負って歩くトレーニング」でしょう。こうして、ランニングではない答えにたどりつきました。私に適しているのはいわゆる歩荷トレーニングだったのか。
現状把握では10kgくらい背負ってゆっくりなら問題なく歩けることがわかっています。目標が20kgなので、とりあえず15kgでコースタイムで歩いてみる、そのうち重量を増やしていく、という内容に決めました。膝や腰など痛いところはないので、重さには耐えられそうです。とりあえずやってみてから調整します。
トレーニングする場所を決める
同じ場所で繰り返した方が効果もわかりやすいので、トレーニングする山を決めます。いくつかの候補から、島南部にあるモッチョム岳に決定しました。理由は以下の3つです。
1 自宅からの往復日帰りが無理なくできる。
モッチョム岳は車で約40分、登山口まで舗装道路でいつでもパッと行けます。早朝から夜遅くまでかかり、交通機関の本数も少ないとなるとトレーニングが億劫になる可能性が高いです。続けるためにも、アクセスが便利で交通費もあまりかからない山がおすすめです。
2 冬でも雪の心配がなく、人の気配がある。
モッチョム岳は島内の人は誰もが知る山ですが登山客は少なめです。しかし登山口に観光名所の滝があるので通年で観光バスの出入りがあり、売店やトイレもあり、多少は安心感があります。全く誰も来ない山奥のルートだとひとりで何かあった時に大変です。
3 下山後に温泉がある。
モッチョム岳の近くには地元で愛される尾之間温泉があります。頑張った後には温泉!という励みは大きかったです。冷水でアイシングして熱いお湯にザバッと浸かって疲労回復にもかなり効果がありました。下山後のクールダウンはトレーニングを故障なく続けるためにも重要だと思います。
もし初めての山なら、最初は下見をして勾配や道迷いの可能性、目印となるポイントなど、ルート内容を把握するのがいいと思います。
トレーニングしながら内容を修正する
いよいよトレーニング開始。目標は15kg背負ってコースタイム、ただ何時までにここに着かなかったら撤退、というポイントもいくつか決めておき、どこまでいこうかと頭を使わずひたすら歩けばいいようにしておきました。
モッチョム岳は日帰りの山ですが、頂上に着くまでずっと急登が続きます。厳しいなと覚悟はしていたものの、予想のはるか上をいくハードさ。ゼーゼーハァハァ息を切らして必死で登っても足は上がらず、初回は半分もいかずに撤退。駐車場に戻ってしばらく疲れ果てて動けなかったくらいです。
やってみて気づいたことは、上りの急登はトレーニングに最適なのですが、下りは重さでバランスを崩して危険な感じがします。そのため下りは慎重さを優先することにして、最終的な目標を「20kgを背負って頂上までコースタイムで登る」に修正。そして、徐々に重量をあげていくよりは、キツくても最初から20kgで身体を重さに慣れさせたいと思い、どこまで行けるか距離を延ばしていくトレーニングに修正しました。
週1回の予定が心身ともに疲労困憊で1週間では回復できず、2週間後に再トライ。荷物は20kgに上げましたが、意外なことに前回より先まで行けたのです。 高度順応ならぬ重量順応したかのように、1回でも多少は身体が慣れるものなのでしょうか。刺激で覚醒するのでしょうか。前回のあそこまで!という小さな目標も影響したと思います。
トレーニングの効果は絶大
結局、4月までに「20kgを背負って頂上までコースタイムで登る」は達成できなかったのですが、月2回でひと冬続けるだけでも距離は着実にのび、そもそもの願いである「重い荷物が持てるようになりたい!」については、歩荷トレーニングで十分な効果を体感することができました。
登山で荷物を用意するたびに「軽っ!」とひとりでつぶやくようになり、缶ビールの1本や2本迷いなく入れられるようになりました。今までは息切れしないように気をつけていましたが、トレーニング中は息を切らしてなんぼなので、普通の登山で多少息が切れるポイントがあっても焦らなくなりました。
負荷をかけなきゃトレーニングにならない、健康維持とトレーニングは違う、と今まで聞いていた言葉の意味がはっきりわかりました。トレーニングとは負荷である。
重い荷物が持てるようになるには、できる範囲でその重さに慣れるのが早い方法なのではないかと思います。短期集中でも歩荷トレーニングは効果大いにありです。
現状把握、目標設定、計画、実行、検証。仕事でもこれくらいキッチリできればいいのですが、、、、、とりあえず、またトレーニングにいい山を探したいと思います!
文:山歩みち編集部(屋久島りかこ)