家を出る時は快晴だったのに、登山中に雨、、ということは珍しくありません。自分は雨男だとか、私は晴れ女だから、などの話題で盛り上がることもよくあります。登山初心者でも備えさえちゃんとすれば、心配しすぎなくても大丈夫です。登山を続けていくうえでは避けられない、雨の日の登山について考えてみます。
雨天での登山の主なリスク
例えば初夏~秋のいい時期だけ毎月登山に行くとして、年6回。そのうち雨にあたる確率というのはどれくらいでしょうか。登山経験が何年かあるとしても年間に行く回数が少ない場合、レインウェアを最初に買ったものの、まだ着たことがないという方もいます。そんな方は雨が降ったら嫌だな、というくらいのイメージしかないかもしれません。実際に雨の日の登山では、いつもとは違う様々なリスクがあることを知っておく必要があります。
1)転倒(スリップ)
雨に濡れると、登山道は普段より大変滑りやすくなります。特に石や丸太の上、梯子は要警戒。またぬかるんだ泥道を通った時に靴裏に泥が挟まることで、滑り止め機能が低下して、思いがけない場所でスリップすることも。下りでは特に細心の注意が必要です。
2)川の増水
登山道によっては、沢を渡ったりする箇所や、枯れている沢の中を通過する箇所があります。雨のあとは水量が普段より増えていることがあるので、注意しなくてはいけません。事前に危険だと判断した場合は、無理をせず迂回ルートを調べて計画を変更します。行ってみて増水に遭遇してしまった時には、引き返す決断も必要とされます。
3)道迷い
雨により視界が狭くなったり、また景色も少し違って見えたり、普段なら何ということもない道で目印を見落としてしまうことがあります。また、雨が降っている時に限らず霧やガスにも注意しなくてはいけません。見渡せるはずの景色が一面真っ白で何も見えず、方向感覚が狂わされ、分岐点で間違った道に進んでしまうこともよくあるのです。雨に濡れることで、紙地図やスマホの地図アプリが使いづらくなることも頭に置いておく必要があります。
4)低体温症
雨の日は晴れの日と比べると、どうしても気温が低くなりがちです。しかも雨だけでなく、風を伴うこともしばしば。標高の高い山では、その傾向は特に強いといえます。雨に濡れて風にさらされると体温はどんどん下がり、体力だけでなく思考力も低下してきます。低体温症は最悪の場合、命の危険にも関わります。
雨天での不便さに慣れる
これらのリスクを回避するために、登山開始前から明らかに悪天候がわかっていて、安全が確保できないと思われる場合は中止にする判断も必要です。
しかし、初心者だからといって、雨の日の登山経験が全くないままというのも、おすすめはできません。日帰りではなく泊まりでの登山を計画した場合は、初日は晴れていたとしても、2日目以降が雨に変わる可能性もあります。 また、登山ツアーに参加した場合は、ツアーガイドが大丈夫だと判断すれば、ある程度の雨でも登山は予定通り行われます。
登山では、雨だけでなく風や雪や暑さなど、気象条件に合わせて柔軟に対応する能力も要求されます。そのため、あえて雨の日に行き慣れた山に登ってみて実際に不便さを体験し、自分の経験値を上げるという考え方も重要だと思います。
◆ 雨の登山道は難易度が上がり時間がかかる
歩きづらくなるだけでなく、それに合わせて所要時間も予定より長くなりがち。特に岩場などは危険度がかなり増します。コース状況を予測して、大幅に計画を変更することも検討しなければいけません。
◆ レインウェア着用の登山は意外と暑い
登山用のレインウェアがいくら防水透湿性に優れていても、行動中は思っている以上に発熱しているので、よほど気温が低く寒い日でない限り内部はどうしても蒸れます。内部が濡れると冷えにつながりますので、雨の日の体温調節は非常に難しいところです。とにかく汗をかかない程度の薄着にしたり、速乾性のインナーを着用したり、細心の注意が必要です。
◆ 荷物の出し入れや取り扱いが大変
雨天時はザックがカバーで包まれてしまうので、荷物の出し入れが面倒になります。しかも、開け閉めの際にザック内の荷物が濡れることも。地図やカメラなどいつも首から下げて頻繁に使っているものでも、濡らさないようにジャケットの内部で守らなければいけないため、全てにおいてひと手間ふた手間が増えます。
◆ 水や行動食の補給が面倒になる
荷物の出し入れが大変になることで、水や行動食の出し入れも億劫になり、意識していないといつもより水分や食べ物を口にする回数が減ります。気づかないうちに脱水症状やエネルギー不足でバテてしまうことがあり、危険です。歩き出す前に、水や行動食を出し入れしやすい位置やポケットに十分に入れる、休憩の時は面倒でも必ず補給するなど、かなり意識して対策しておきます。
雨の日の不便さは他にも
- 森の中は特に昼間でも暗い
- 地面が濡れているので休憩場所の確保が困難
- 傘をさすと片手がふさがってしまう
- 電波状況が悪くなることがある
など、いつもは気づかない細かいことが色々と出てきます。
登山装備の要はレインウェア
雨の日の登山はレインウェアがなければ始まりません。日帰りハイキングのあくまで緊急用で念のために持って行くものとして、ポンチョや一般生活用の雨がっぱなどで済ませている人もいますが、しっかり歩く登山を続けるのであれば、上半身と下半身が分かれているタイプの登山用レインウェアを準備しましょう。
ちゃんとしたものを持つとするならば、ゴアテックス製をおすすめします。ゴアテックスというのは素材の商標名です。外部からの水の侵入を防ぐ「防水性」と、内部の汗や蒸気を外に逃がす「透湿性」の両方を備えた、防水透湿性に優れた素材です。しっかりとメンテナンスをすれば長く継続して使用できます。
現在、各メーカーから多くのゴアテックス製レインウェアが販売されています。同じゴアテックス製でもメーカーによって価格は異なりますので、デザインや着心地などで選ぶのが良いと思います。
◆ 初心者へのイチオシは「ストームクルーザー」(モンベル)
ゴアテックス製レインウェアの中でも、モンベル製品は価格的に抑えられており、ストームクルーザーは軽量でコストパフォーマンスの面でも人気が高いです。
いきなり数万円の出費は厳しい、急きょ必要になった、登山に行けるのは年に数回というような場合は、レンタルを利用してみるのもおすすめです。実際に一度着て雨の中を歩いてみてから、どれを購入するかじっくり検討しても良いと思います。
その他に必要な雨天用の登山装備
1)ザックカバー
見落としがちなのですが、ザックの容量に合わせたものが必要です。多少の差ならいいのですが、あまりに大きすぎるとたるんで水がたまったり、強風の際に風をはらんで飛ばされることもあります。また、ザックカバーを付けていても完全防水できるわけではありません。ザック内の衣類やバッテリーなど電子機器類については、ジップロックや防水スタッフバッグに入れるなど、重ねての注意と対策が必要です。
2)レインスパッツ(ゲイター)
足首からひざ下、ズボンのすそを泥から防ぎます。靴への浸水もカバーでき、足首までのショートサイズから、ひざ下ロングサイズまで長さは色々あります。ちなみに、夏場に発生するヒル除け対策としても使えます。
3)グローブ
雨に加えて標高が高い場所や風の強い日は、夏でも指先が冷えます。また、滑って岩に手をついたり転倒した際にも、素手ではなくグローブをしておく方が安全です。行程が長い時は、スペアのグローブを用意しておくとより安心です。
4)帽子
レインウェアのフードだけでは顔に雨が直接当たるので、前方視野が狭くなりがちです。傘が使える場面も限られます。つばのある帽子の上からフードをかぶれば、顔に流れてくる雨を防ぐことができ、視界を確保できるので快適さがかなり違います。晴れ用と雨用を別々に持って行く必要はありませんが、晴雨兼用の帽子もあります。
日ごろから天気予報を見る
初心者のうちは、いきなり天気図がどうこうという前に、まずは日々の天気予報を見ることに慣れるのが良いと思います。そして登山向けの天気予報サイトも登山前日だけでなく、1~2週間前から見ていくことで、天気の変化に敏感になっていくことをおすすめします。
もっと詳しいサイトや有料サイト、天気予報アプリもありますが、最初は多くの登山者が使っている以下を見るようにしてみてはどうでしょうか。
◆ 天気とくらす
通称「てんくら」と呼ばれています。登山指数としてA~Cをイラストで表してあり、初心者でも感覚的にわかりやすいサイトです。
◆ 日本気象協会(山の天気)
主な標高ごとの気温や風速の数値が細かく表示されています。天気図や雨雲レーダーなどのリンクもあるので、まとめて情報を見ることができます。
◆ 気象庁(雨雲の動き)
あらゆる天気予報の大元となるデータです。雨だけでなく、台風、地震、噴火など気象に関する全ての情報が得られるので、このサイトを活用できるようになると日常でも非常に便利です。
まとめ
雨の日の登山を何度も経験すると、対応できる幅が確実に広がり、登山を続けていくうえでの自信にもなります。雨だからといって必要以上にがっかりしたり、一喜一憂することもなくなり、精神的に安定することは安全な登山にもつながります。まだ雨にあたったことがないという晴れ男・晴れ女の方々は、もしかすると登山経験としてはいいことばかりではないかもしれません。ぜひ一度、あえて雨の日の登山も経験してみてください。