テント泊ってカッコいい、いつかは自分もやってみたい、と憧れる人は多いのではないでしょうか。しかしテント泊は荷物は多くなり体力も必要となり、山小屋泊と同じようにはいきません。いざ初めてのテント泊に行ったもののツラくて後悔、、ということのないように、テント泊のメリットとデメリットを知り、覚悟を決める事前シミュレーションをおすすめします。
テント泊は「なんだかカッコいい」
テント泊に憧れる理由は、自然を感じられるとか、自由であるとか、色々な理由があると思いますが、全てをまとめると「なんだかカッコいい」というイメージによる影響が大きいのではないかと思います。
大きな荷物を背負って登る姿のカッコよさ、道具を使いこなすカッコよさ、ザックの中に旅の全てが詰まっているミニマムなカッコよさ、さらにソロ登山なら誰にも頼らない孤高のカッコよさ。
シュラフに入って幸せな気分に浸りつつ、夜はお酒を飲みながら満天の星を眺め、朝はコーヒー片手に朝焼けを待つ。なんて素敵なんだろうとイメージはどこまでもふくらみます。
しかしテント泊にはリスクも多い
カッコいいからやってみたいというのは決して悪いことではなく、それがモチベーションにもなるため大いに賛成です。避けたいのは、いいイメージだけを想像して、テント泊のデメリットやリスクについて深く考えないまま行ってしまうこと。
登山の安全に関わることはもちろんですが、実は金銭的なリスクもあります。張り切って高いテントや寝袋など一式購入したものの、初めてのテント泊が思っていた以上に大変でそれきり使わなくなってしまうということも大いにあり得ます。
イメージと勢いで購入する前に、テント泊のデメリットも併せて一緒に考えてみたいと思います。
テント泊のメリット
カッコいいという漠然としたイメージは別としても、テント泊の具体的なメリットは言わずもがなでたくさんあります。
・行ける範囲が広がる
最初のうちは営業小屋のテント場を利用して慣れつつも、テント泊ができれば避難小屋やテント場しかない縦走路でもチャレンジが可能になります。人が少ないところに行きたい方にとっては、行ける範囲が広がるのは大きな変化です。
・宿泊コストが抑えられる
山小屋泊なら1泊食事付きで1万円程度かかるところが、テント泊ならおおよそ1,000円程度。自炊の食材費を加えたとしてもかかるコストの差は大きいです。お金がないからテント泊、という方々も多いと思います。ただ初期費用はかかることをお忘れなく。
・精神的な自由さがある
他人を気にせず自分だけの空間を確保できることや、食事など決められた時間に縛られないで済むなど、自分のペースで行動できる精神的な解放感はテント泊の最大の魅力かもしれません。人のイビキや動く音で眠れないという理由で、テント派になる方もよく聞きます。
・緊急時の備えにもなる
山小屋泊だと寝袋も食材も持っていないため、何としてでも小屋に到着する必要があります。しかしテント泊であれば全てを持っているので、万が一の時はテントを張ってビバークという方法も取ることができます。また、山だけでなく災害時にも使えます。
テント泊のデメリット
実際には山中でのデメリットだけでなく、実は登山の前後に見えないデメリットがあるのにお気づきでしょうか。
・準備が増えて複雑になる
道具を揃えたら終わりではなく、朝昼晩の食事メニューを考える、冷凍やドライフーズなど保存方法も配慮する、食材は不足せず余らせない分量を考える、買物してモレなく揃える、水場の有無を調べる、など準備が増え、それぞれの出番も同じではないのでパッキングにも頭を使います。
・荷物が重くなる
テント、寝袋、調理器具、食材がドンと増えます。いくら軽量化を図っても山小屋泊の荷物より減ることはありません。食材は食べれば減るとしても大した重さではなく、雨の時には帰りの方が重くなることも。登山中だけではなく家を出て帰宅するまでずっと、重い荷物と共に行動することになります。
・体力が必要になる
重い荷物を背負って、キツイ登りや急な下りも含めて、長時間歩き続ける体力が必要となります。これはウォーキングやランニングでつく体力とは別のものだと思って良いと思います。背中にずっしりとのしかかる重量を長時間支えて歩く筋力、体幹、持久力、総合的な強さが必要です。
・時間があるようでない
クタクタで到着しても、テントを建て、水を汲みに行き、ついでにトイレも済ませ、お湯を沸かしてと、やることがたくさんあります。それぞれ離れているので行動も無駄のないように頭を使います。朝も暗いうちから朝食を作って、片づけて、テントを畳んで、パッキングして。実は山小屋泊より忙しいのです。
・帰宅後のメンテナンスが大変
見えなくても汚れや湿気で素材が傷んでいくため、テントや寝袋は乾燥が必要です。一瞬で乾くものでもないので、自宅にしばらく広げておくことになります。びしょ濡れだった場合はお風呂場で洗い流したり、体も心も疲れている上にメンテナンスという重い仕事が帰宅後も続きます。
・精神的な負担がある
慣れるまでは何度確認しても「何か抜けがあるのではないか」という不安が消えません。忘れ物があるとテンションは下がり、燃料やテントのポールなど、致命的になる場合もあります。また、悪天候時の判断や現場対応も非常に難しくなり、常に頭はフル回転で気が休まることがなく、自由さと裏腹にしんどさもあります。
テント購入前にシミュレーションを
それでもやっぱりテント泊への憧れや素敵なシーンのイメージの方が強く、カッコいい道具を見たい、選びたい、そしてネットサーフィンを始めてしまうのではないかと思います。
しかし、一旦、落ち着いてください。テント泊の初期投資は関連アイテムも含めると何万円もの金額になります。1回限りではなく続けていく心の準備はできているでしょうか。タンスのこやしにしない決心はついているでしょうか。
道具を買ってしまう前に、「自分はすでにカッコいい道具を全て持っている」という仮定のもとで、テント泊の準備からメンテナンスまでを具体的にシミュレーションし、リアルに考えてみて欲しいのです。
1. 準備をしてみる
→何でも揃っている前提で、持ち物リストを作成してみます。食事も朝昼晩のメニューを考えて買物リストを作ります。リストを作る中で、塩など調味料も必要だとか、どうやって持って行くんだろうとか、使って汚れた食器はどうするんだろうなどの細かな点や、この準備作業が相当面倒くさくて終わりがないということに気が付くはずです。
テントや寝袋など道具については、最初はレンタルという選択肢もあります。キャンプ用のレンタル会社は数多くありますが登山用のレンタル会社は少なく、下記サービスのいずれかなら間違いないと思います。
◆やまどうぐレンタル屋
◆そらのした
2. 重い荷物を背負ってみる
→大体7~10kg程度を目安として、ザックに同じくらいの重さを入れて背負ってみます。家にあるものでなかなかその重量のものはありませんので、お米や2Lの水を5本などで試してみると良いです。手で持ってみるのではなく、登山と同様に背負ってみて確認した方が感覚がわかります。
3. 体力を確認してみる
→重くしたザックを背負って、マンションや家の階段などで試しに上り下りをしてみます。平坦な道をいくら長く歩いてもシミュレーションになりませんのでアップダウンが必要です。可能であればその荷物を背負って近場の山に日帰りで出かけてみることをおすすめします。
4. メンテナンスと保管ができるか考える
→晴れた時に干せるとは限らないため、雨でも干せるか自宅をリサーチします。鴨居があればフックでひっかけたりロープを張って干すこともできますが、マンションだと難しい場合も。お風呂場で泥汚れなど洗い流すことも考えておかなければいけません。テントは本体、フライシート、マット、それに寝袋とマットも加わりますので、なかなかのボリュームです。
気密性の高いマンションでは、メンテナンスをせずに長期間保管しているとカビや生地の劣化もありますので、使う頻度と保管方法・スペースも要検討です。
但し、レンタルの場合はこのメンテナンスと保管が不要となるので、デメリットがひとつ減ると言えます。
5. 雨をイメージしてみる
→「行程全てが雨だったとしたら」をイメージしてみます。行く前から大雨なら中止もできますが、曇りで雨がシトシト降り続けることもあれば、テントを建てるのが危険なほどの強風もあります。バテてしまって何もする気が起きない時でも対応するだけの判断力や、気持ちの強さが持てるかどうか。大雨の中で歩いた経験があればそれも想像の助けになると思います。
6. 年間計画をたててみる
→現状では年に何回登山しているのか、その中でテント泊が何回できるのかを考えてみます。そもそもが夏に月1回程度で年間3~4回しか登っていないとか、回数は多いけど連休は取れないので日帰りが多いなど、現実と照らし合わせると意外とテント泊のチャンスは年1~2回かもしれません。それでも購入するべきかどうか。
まとめ:覚悟ができたらいざ購入!
ここまでのシミュレーションを本当にやってみて、それでもテント泊がしたいと思う方なら大丈夫。きっとどんなデビューになっても後悔はないと思いますし、続けることができると思います。
世の中にはおすすめテントの最新情報や、羨ましくなるほどカッコいいテント泊の写真があふれていますが、それはあくまで華やかな表舞台の話。その裏には、買ったものの全く使っていないテントや寝袋をひっそりと眠らせている方々もたくさんいるのです。
後悔のないように覚悟を決めて、ぜひ初めてのテント泊にチャレンジしてみてください!