屋久島 5・18 豪雨災害を考える

登山ノウハウ
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未曾有の豪雨となった屋久島5・18。私たち登山者がこの事例から学ぶべきことはいったいなにか。豪雨の渦中で自らゲストをサポート、無事下山した現地ガイドがみたその実態と問題点とは。屋久島に限らない、広くどの山域でも起こりうる豪雨災害について考える。

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屋久島で起こったこと

令和元(2019)年5月18日の午後、鹿児島県屋久島町では、気象庁がもつ過去の観測データを上書きする記録的な大雨が降った。それに伴い県道ヤクスギランド線などの複数箇所で土砂崩落が発生。縄文杉の玄関口である荒川登山口と里をつなぐシャトルバスの運行がストップ。その影響で当日入山していた314名の登山者が下山できなくなり、多くは登山口に待機していたバスや休憩所のなかで一夜を明かすという事態に陥った。

屋久島町には災害復旧対策本部が設置され、広域消防・鹿児島県警のほか、自衛隊・海上保安庁への応援も要請。翌19日の朝から本格的な救助活動が始まり、その日の夕方までに全員が里まで下山した。

この災害には現地の登山ガイドも巻き込まれており、地元ガイド組織が中心となって被災ガイドから情報を集め、当時の状況やその原因について調査している。その資料からそのとき屋久島であったことを考えてみたい。

時系列での現場状況

まずは起こったことを時系列に抜き出してその輪郭をなぞってみよう。屋久島では気象庁が大雨警報を発令した場合、シャトルバスの運行も含めてツアーを中止するという取り決めがある。この点について、17日17時の段階で気象庁は警報予測を「高(6〜24時)」と発表。しかし、18日5時の段階で、それは「中(6〜18時)」「高(18〜6時)」という内容に細分化され警報発令はなかった。以下、18日以降の経過となる。


■5月18日(土)

5時、始発シャトルバスが運行。

5時40分、荒川登山口から先頭が縄文杉へ向け出発(雨小康状態)。

6時30分、登山口周辺の雨が強まり引き返すグループあり。

7時、雨脚が弱まる。

11時30分、降ったり止んだりの雨だったが縄文杉付近で次第に強くなる。

12時、最終組が縄文杉から下山開始。

13時40分、翁杉渡渉点で膝付近まで増水。

14時30分、荒川口から10分の小滝が増水して通過困難となる。複数のガイドが協力してスリングで支点を構築、確保しながら登山者の通過をサポート。

15時、帰りの始発バスが荒川口を出発したが、途中で土砂崩落に遭遇し立ち往生(三叉路に停車したバスで一夜を明かす)。

15時25分、大雨警報発令。

16時1分、洪水警報発令。

17時40分、屋久島町に災害対策本部設置。

17時55分、縄文杉から最終組が荒川口へ下山。

18時、荒川口にいたガイドが招集され人数の確認と班分け・登山者を待機していたバス内へ誘導・食料を一箇所に集め、配布を実施。

18時20分、災害対策本部より18日の救助活動打切りの連絡。

21時、県知事が陸上自衛隊に災害派遣要請。

21時30分、全体の体調を確認して就寝。この時、荒川口にはバス運転手や協議会スタッフなども含め、総勢220名がいた。

■5月19日(日)

5時、登山口でガイドが招集され食事、飲み物の提供。災害復旧本部では県防災ヘリやトロッコでの救出方法が検討されるも天候不良などでいずれも断念。

7時20分、県警が崩落箇所を超えて荒川三叉路まで到着、立ち往生していたバスと接触。

9時3分、陸上自衛隊が屋久島に到着。

9時40分、荒川口組に対策本部より自衛隊が到着するまで待機の指示。

10時2分、県警が三叉路バス組を救助開始。

10時30分、三叉路バス組が下山開始→警察署にてトリアージ後解散。

11時5分、県警が荒川口に到着。

11時30分、荒川口組が徒歩で山麓に向けて出発。

13時20分、崩落箇所に到着するも簡易橋が設置されるまで待機の指示。

14時47分、簡易橋が完成して救助再開。

16時30分、荒川口組警察署武道館にてトリアージ後解散。

16時44分、高塚小屋泊組崩落個所通過。

18時、高塚小屋泊組警察署に到着しトリアージ後解散。

※トリアージ│大災害などで同時に多数の傷病者が出た際に、手当の緊急度によって優先順位をつけて対処、限られた資源(スタッフ、資材等)を有効活用し、最大効率を発揮させること。

■5月20日(月)

17時、山岳地における残留者なしと判断、山岳に係るすべての活動が終了。

20時35分、大雨警報解除。


これらの経緯をふまえ、道路の通行止め基準は鹿児島県が検討を重ねた結果、従来の「大雨警報が発令された場合」のほかに「連続雨量220㎜/24h以上、鹿児島地方気象台が鹿児島県の大雨に関する気象情報を発表した場合」という文言が新たに加わった。地元ガイド組織も、ツアーの催行基準に「県道の通行止め基準取入れ」と「運行規定の作成を徹底・義務化」という2点を加え運用してゆくことになった。

一方で、道路復旧などハード面の整備は順調に進み、県道ヤクスギランド線に続いて町道荒川線も補修工事が終わり、6月8日に荒川口へのシャトルバス運行が再開。現在は、これまでどおりのツアー(登山)ができるまでに復旧は進んでいる。

災害から学ぶこと

5・18を経験した屋久島では、従来の経験則が役に立たない新たな気象変化の時代に突入したという共通認識が広がっている。事実関係の確認を進める過程で、鹿児島地方気象台の予報官を招聘して気象講習会を開催したが、予報官は「5月18日午後の急激な気象変化を、私たちも予測できていなかった」というコメントを残している(予想降水量は1時間50㎜、24時間200㎜だったが、実際には1時間100㎜、18日から20日までに480㎜を観測し、1時間降水量は観測史上1位を記録)。

こうして事実関係を整理して理解を深めてみると、従来に増して慎重かつ謙虚な姿勢が求められてゆくのを感じる。しかし、これは屋久島に限ったことではなく、いま日本全体に必要なことだともいえる。平成30年7月豪雨は、西日本を中心に北海道や中部地方を含む日本列島の広範囲で大きな被害をもたらした。豪雨だけでなく、昨年は異常な酷暑が全国を襲い、今年は異常な低温による季節外れの積雪が報告されている。

温暖化、異常気象など、前例のない自然条件となっている現代。我々は、こうした状況下で山を、自然を楽しんでいる。とすれば、たとえ日帰り登山であったとしても、安易に考えることなく、必要装備は揃え、気象情報等にも留意していく必要があるだろう。

今回の屋久島の事例は、山に入る我々すべてに対する自然からの警告なのかもしれない。この事例から学べることを学び、いままで以上に謙虚な気持ちで、山に向き合ってゆく必要があるように感じている。

※フリーペーパー山歩みち32号掲載(2019年7月発行)

構成・文:大沢成二、写真:yamakara

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この記事を書いたひと

フリーカメラマン、屋久島登山ガイド。2003年より屋久島の撮影を続け、2007年に島へ移住。現地から各種雑誌や広告媒体に屋久島の写真を提供している。
CP Monthly Contest 10 入賞。APAアワード2009広告作品部門入選。エプソンフォトグランプリ2015ヒューマンライフ部門 三好和義賞。「屋久島 (青菁社フォトグラフィックシリーズ)」カレンダー「屋久島COLOR2012-2016(山と渓谷社)」

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