コンパスを使っての地図読み、なんだか難しいイメージがありませんか。何から始めたらいいのか、何ができればいいのかわからない、登山技術のひとつではないでしょうか。当社で企画・実施している登山ツアー「yamakara」の日帰り講習5回シリーズの第3回「はじめての地図読み」を取材してきました。(取材日:2020年3月4日)
長く(N) 楽しく(T) 安全に(A)!NTAレッスン
- 1回目:疲れにくい歩き方&ダブルストックの使い方
- 2回目:テーピング&ファーストエイド
- 3回目:はじめての地図読み ←今回はこれ!
- 4回目:かんたんロープワーク&ツェルトの張り方
- 5回目:鎖場通過と三点支持
地図読み開催場所は「八王子城跡」
高尾駅に集合して向かうのは八王子城跡。今回のシリーズ講師の楠元さんから、駅でいきなり参加者に2万5000分の1地形図が渡されました。
地図上で、現在地の高尾駅と目的地を教えた上で、まずは高尾駅から八王子城跡入口のガイダンス施設まで徒歩約30~40分の道のりを、参加者のみなさんで先導してみてくださいとのこと。
えっ、ただの街歩きでしょ、簡単でしょと思いつつも、2万5000分の1地形図には建物の名称など細かな文字情報はないため、皆さん戸惑いが隠せません。地図読み!と肩に力が入るのか焦るのか、駅前なのにコンパスを出そうとしたり、出してみたものの何を確認したいのかがわからなかったり。
線路も駅もあるし、幹線道路もあるし、ここではコンパスは特になくても普通の街歩きの地図と同じように使えばいいのですが、やはり「地図読み」はどうしても難しく考えてしまうものなのですね。
2万5000分の1地形図を見る時の基本知識
街を歩きながら、楠元さんから現在地はどこですか、次はどこで曲がりますか、と軽い声かけがあり、大丈夫だとは思いながらもこまめに地図を見て確認。ぶらぶら歩きとはやはり違います。無事に到着し、山を歩く前に簡単な机上講習を行いました。
初めての地図読みはできるだけ難しくなくシンプルにということで、2万5000分の1地形図を見る時の基本知識とコンパスの使い方について、ポイントを絞ってレクチャー。
- 地図は上が北、正確な北は斜めの磁北線の向き
- 25000分の1地形図は、等高線1本につき標高差10m
- 25000分の1地形図は、1cmが実際の250m
- 等高線の幅が狭いところは急斜面、広い所は緩斜面
- 等高線が小さな円として閉じているところが「ピーク」
- ピークから外側に突き出している等高線のラインが「尾根」
- 逆に内側に突き出している等高線のラインが「沢」
これを覚えて、かつ、地図を見て立体的にイメージする。地図は平面ですが、頭の中では「急斜面」「緩斜面」「ピーク」「尾根」「沢」を立体的にイメージする必要があります。暗記する勉強とは違って、何度も地図を見て、頭を使って想像する練習を繰り返して慣れるしかありません。
家でもできる地図読み練習は?
恐らく「何度やっても地図読みができない」と言う人は、この頭でイメージする練習をやっていないために、地図が立体的に見えないままなので、「地図読みができない」と思っているのではないかと思いました。
なかなか山に行けない場合、例えば自分が行った場所の写真と、同じ場所の地図を用意してみてはどうでしょう。まず地図から立体的にイメージをしてみて、その通りの地形になっているかを写真で確認。もしくは写真と地図を見比べながら、このような地形が等高線ではこんな風になるのかと確認。
自分が行ったことのあるコースを地図と写真で改めてたどると、「このあたり確かにキツかったけど、こんなに急だったのか」「この尾根を歩いていて右側に見えたのはこの山か」など、地図を立体的にイメージするコツがつかめるのではないかなと思います。
この先の地形を予測し、進みながら答え合わせ
では、実際に山を歩く時に、この地図の何を見てどう使えばいいのか。
街歩きの場合は交差点や大きな道路、駅、大型施設などの目標物がありますが、基本的に山ではそれがありません。そのため、これから出てくるであろう地形を先読みでイメージし、答え合わせをしながら進む、ということになります。
例えば現在地がここだとすると、あと何mくらいで急な斜面が出てくるとか、この後何kmくらい下ると沢沿いに出る、など地形図から予測を立てて、その通りにならなかったらおかしいと気づく。わからなくなったら、ひとつ前の現在地を確認した地点まで戻る。
上記のポイントだけでも予測はある程度立てることができますが、特徴的な地形でないと難しいところはあります。そのため、もっと細かい地形の読み方を覚えていくことで、予測の精度を上げていくことが「地図読みができる」ということ。常に「現在地の確認」と「先の予測」を続けながら歩くということは、迷ってから地図を広げていては遅いわけです。とにかく現在地が命!
そしてこの現在地確認に有効なのがGPSだということで、「地図とGPSの両方があった方が良い」という、最近では一般的になっている説にも納得。
低山や里山で迷う怖さ
次は実際に外へ出て実践。参加者が交代で先頭を歩き、途中で楠元さんから現在地はどこですか、という問いがあります。しかし見晴らしもなく大きな起伏もない山道だと、分岐点でもない限り、これがなかなか確信を持って答えられません。
興味深かったのが、ほとんどの方の答えが、実際の現在地よりもっと先に進んでいるつもりだったこと。現実は思ったよりも進んでいないのです。これは先に行きたい、進んでいたいという潜在的な意識が影響しているのだと思います。
天候の判断でも、50%のところを良くなるだろうとポジティブに解釈してしまう危険と同じように、もうここまでは進んでいるだろう、という希望的観測をしてしまう怖さ。安易に感覚に流されず、その根拠を確実に持つためにも、地形を読む精度を上げていく必要があるのだと思いました。
もうひとつ惑わされたのが、地図上には出てこない隠れたニセピークの存在。等高線は10m刻みのため、標高差が10m未満の高低差は地図には表現されないのです。かなり登ったのでひとつピークを越えたつもりが、実は隠れピークで地図上のピークはもっと先だった、という場面もありました。低山や里山だとこれが頻繁に出てきますし、眺望がなければ近くの高い山を目標物にすることもできません。
恐らく普通にハイキングに来ていたら何も考えずに歩いている山道でしたが、感覚値と実際のズレを体験することで、これはうっかり遭難も十分にあり得る、と感じました。あまり登山者のいない静かな低山や里山の方が、作業などの踏み跡で登山道以外にも道ができている場合が多いです。山歩きに慣れていない人はしっかりとハイキングコースとして整備されている山、道案内の標識が多い山、登山者が多い山を選ぶことも大事だと思います。
みなさん想像がふくらみ、ここで迷ったら出られる気がしない、暗くなったら絶対に歩きたくない、ヘッドライトなかったらどうしよう、しかも1人だったらどうしよう、といった話をしながら下山しました。
まとめ:何はなくとも「現在地」
地図読みと聞くと、コンパスが使えなきゃ、地図が読めるようにならなきゃと難しく構えてしまいがちですが、まずは「現在地」がわかることが第一。迷った時は現在地がわからないんじゃないの?と思うかもしれませんが、だからこそ、こまめに頻繁にしつこいくらい地図で現在地を確認しながら歩くのです。
それでもどうしても迷ってしまった時、助けになるのがGPS。現在地を表示してくれることで、次の行動をとることができます。じゃあもうGPSだけでいいんじゃないのと思うかもしれませんが、GPSは携帯にしても専用機器にしても、充電切れや故障がないとも限りません。また、現在地がわかっても、その後はどの方向にどう進めば良いかということはGPSは教えてくれませんので、やはり地図を読む力が必要となります。
はじめての地図読み、最も大事なことは、何度も言いますがとにかく「現在地」を死守すべし!
地図を持って山に行ったら、まず常に現在地を確認すること、もうひとつはこれから出てくる地形を予測して答え合わせしながら進むこと、その二つをぜひ実践してみてください。
家での練習は、地図を立体的にイメージできるようになることなので、行ったことのある山の写真と地図を用意して、見比べながら等高線の表現に慣れてみてください。イメージした形とおりの山の写真だった場合、ビンゴ!と言いたくなると思います。楽しみながら自宅でも地図読み練習を!