大学生・エベレストサミッター 伊藤 伴さん|100%確実な目標だったら面白くない

大学生・エベレストサミッター 伊藤 伴さん 山歩のひと

フリーペーパー『山歩みち』2018年夏 029号掲載

※この記事はフリーペーパー『山歩みち』に掲載されたものに一部加筆、修正を加えたものです。基本的には取材時の内容となっておりますので予めご了承ください。

Profile ※2018年時点

いとう・ばん 1995年東京・小平市生まれ。中学3年でモンブラン(4810m)、高校3年でロブチェ・イースト(6119m)、大学3年でエベレスト(8848m)とローツェ(8516m)に、いずれも国際山岳ガイド近藤謙司さんのガイドで登頂。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドの資格ももつ。

エベレストの日本人最年少登頂者に〝3日間だけ〞なったのは2年前の2016年のこと(※1)。今、大学4年生となった伊藤伴さんは「国際山岳ガイドになる」という夢を見据えて、未知の地平に挑もうとしている。

※1│伊藤伴さんが2016年5月19日に20歳でエベレストに登頂した4日後、19歳の南谷真鈴さんが登頂して日本人最年少登頂記録を更新した。

――大学では何を学んでいますか。

伊藤:専攻は現代経営学、経営学部経営学科に所属しています。

――大学に進学したのは経営の勉強のためですか。

伊藤:いえ。はじめは大学に行くかどうかも迷っていて。最終的に進学を決めたのは、大学生活を通じてアウトドアや山だけではない、いろんなバックグラウンドを持つ人たちと関わりをもちたかったからです。

以前、近藤さん(※2)から「ガイドは、技術、体力はもちろん、人間性でするものだ」と教えてもらっていて。山のことは当然として、山以外の経験や知識を持っていた方が人間として厚みが増し、ガイドになったときに生きると思ったんです。

※2│本誌にもたびたび登場いただいている、国際山岳ガイドの近藤謙司さん。

――卒業後はなにをしたいと考えていますか。

伊藤:ある先輩には、将来ガイドになるにしても、一度は社会人経験を積んでおいた方がいいと言われています。でも、自分の人生でもっとも自分の山に集中できるのは、たぶんこれからです。僕が目指している国際山岳ガイドは圧倒的な登山経験がモノをいう仕事。近藤さんには「20代の若いうちに、死んではいけないけど、死にそうなぐらいの登山をどれだけしてきたかが問われる」と言われています。実際、判断力とか、自然に対する鋭敏な感覚って、山で切羽詰まった状況を乗り越えていくことでしか養われないと思うんです。

――16年秋にマナスルに行ったのも、そんな考えからですか。

伊藤:そうです。エベレストまでの僕の登山は、国内の夏山縦走やフリークライミングを除いて、ほぼガイド登山です。エベレストに登れたことで自分に自信がもてた一方で、「このままじゃダメだ」と。だから、マナスル(※3)では自分で日程を組み、さまざまな手配もして、山の中ではルートや天候の判断をすべて自分たちで行いました。結果は登れませんでしたが、すごくいい経験になりました。

今年23歳で、あと7年半のうちにどれだけ登れるか。アルパインもフリーも滑りもアイスも何でもやって、とにかく経験を積みたい。だから、十中八九、就職はしないと思います。

※3│標高8163m。ヒマラヤの高峰のひとつで、日本人が初登頂した8000m峰でもある。

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〝楽しさ〟を伝えられるガイドになりたい

――伴くんにとって、近藤さんってどんな存在ですか。

伊藤:いろいろです。〝父〟のようでも、〝兄〟のようでもあり。〝山の師匠〟って感じではないんです。一番ぴったり来るのは〝憧れ〟かな。近藤さんのガイドスタイルはすごく好きで。それは一緒に登っていて楽しいから。だから自分も、たとえ登頂できなくても「あなたと登れて楽しかった」「次も一緒に登りたい」と言ってもらえるような、お客さんに山の楽しさを伝えられるガイドになりたいですね。

――近藤さん以外で影響を受けた人はいますか。

伊藤:いっぱいいます。高校時代には、山岳ガイドの佐藤勇介さんにはじめてフリークライミングに連れて行ってもらったり、技術的なことをいろいろ教わりました。勇介さんの「人生は一度きり。安定よりも冒険だ」という言葉はすごく気に入って、今では僕も取材や講演で使わせてもらっています(笑)。

――伴くんは人との出会いに恵まれていますね。

伊藤:人に関しては、自分はすごく運がいいと思っています。それは近藤さんに会えたこともそうですし、小学4年生のときの担任が山好きだったり、ハイキングクラブを作るような理科の先生がいたり。中学、高校の先生も僕の登山を応援してくれましたし、大学では教職員やOBの方々のサポートのおかげでエベレストに行くことができました。

ほかにもエベレストのために高校時代の友達が募金をしてくれたり、中学の同級生たちが10万円以上もする高所靴をプレゼントしてくれたり。 僕、今でも幼稚園、小学校、中学、高校の先生たちの連絡先を知っていて、定期的に会ったり、飲みに行ったりしているんです(笑)。

――国際山岳ガイドはガイドの最高峰。かなり高い目標です。

伊藤:100%なれるとは思っていませんし、そもそも100%確実な目標だったらおもしろくないですよね。自分としては、やりたいことに挑戦しないで時間が過ぎていくのは嫌だなと。せっかくの人生、新しいこと、自分にしかできないことに向かっていきたいんです。

大学生・エベレストサミッター 伊藤 伴さん

取材協力=東京経済大学

写真=加戸昭太郎

取材・文=谷山宏典

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