公益社団法人 日本山岳ガイド協会 常務理事 武川俊二さん|登山ガイドを国家資格に

日本山岳ガイド協会 常務理事 武川俊二さん 山歩のひと
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フリーペーパー『山歩みち』2017年春 025号掲載

※この記事はフリーペーパー『山歩みち』に掲載されたものに一部加筆、修正を加えたものです。基本的には取材時の内容となっておりますので予めご了承ください。

Profile ※2017年時点

たけかわ・しゅんじ 1954年東京生まれ。山岳雑誌「岩と雪」編集部、「クライミングジャーナル」編集長などを経て、山岳専門旅行社を起業。おもに中央アジア、シベリアなどの山々を取り扱う。1996年、日本山岳ガイド協会入会。現在、専業ガイドとして年間250日以上山に入る。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド。

日本山岳ガイド協会が、2020年を目標に登山ガイドなどの国家資格化をめざしているという(※1)。登山ガイドが国家資格となることで、山の世界はどう変わるのか?国家資格化推進のキーマンである常務理事の武川俊二さんに協会が思い描くビジョンを聞いた。

※1│昨年(2016年)11月に開催された日本山岳ガイド協会の全国代表者会議などで公の目標として確認された。

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登山ガイドは職業か

――そもそもなぜ、登山ガイドの国家資格化をめざそうと思ったのですか。

武川:私がこの十数年言い続けている理由は、日本で登山ガイドを職業として成り立たせるためです。登山ガイドや山岳ガイドは、山の世界では職業として認知されていますが、日本の社会全体から見ればそうじゃないってご存知でしたか?

8年ほど前でしょうか、ハローワークで「厚生労働省編 職業分類」(※2)を調べたことがあって、そのなかには登山ガイドも山岳ガイドもなかったんです。当時すでに5〜600名の方がガイド資格をもって、実際に仕事をしていたのですが、ハローワークの方に言わせれば「その人数では職業とはいえない」と。だからこそ、有資格者の数を数千人規模まで増やし、かつ資格を公的なものにしようと考えたんです。そうなれば、職業としての登山ガイドが日本社会において広く認知されて、活躍の場も広がり、多くの登山ガイドがガイド業だけで経済的に自立できる世の中になるんじゃないかと。

※2│約400の職業について、それぞれ仕事の内容などを解説している。現在のものは平成23年(2011年)改訂版で、自然関係の職業として「アウトドアインストラクター」はあるが、「登山ガイド」「山岳ガイド」の項目はない。

――2020年という具体的な目標を明らかにしたのはなぜですか。

武川:ひとつには、今年3月末時点で協会認定の有資格者(※3)で、実際にガイド業に従事している方がおよそ2000名に達したことがあります。また、2020年は東京オリンピックの年です。これから日本中が2020年に向けて突き進んでいくなかで、われわれもその流れに乗っていこうと考えました。

※3│日本山岳ガイド協会では現在、国際山岳ガイド、山岳ガイド(ステージⅠ・Ⅱ)、登山ガイド(同Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)、自然ガイド(同Ⅰ・Ⅱ)、スキーガイド(同Ⅰ・Ⅱ)、フリークライミングインストラクター(インドア・スポーツ・フリー)の資格認定を行っている。

――現在はどんな取り組みをしていますか。

武川:国の関係省庁との話し合いを行っているところです。また、全国にはさまざまな登山・自然系のガイド組織があります。そうした地方組織に属するガイドに協会の研修を受けてもらって認定ガイドになっていただきつつ、組織自体は協会の加盟団体になってもらう取り組みを、この3〜4年ぐらい地道に進めています。従来のガイド資格や組織をないがしろにすることなく、どのように合流していくか。それが今の課題ですね。

――国家資格になった暁には、有資格者でなければ山や自然のフィールドでのガイド業務はできなくなるのですか。

武川:それは「業務独占」か、「名称独占」かによります(※4)。協会としては、業務独占はハードルが高いし、そこまでは求めなくていいだろうと。名称独占の国家資格になるだけでも、ガイド本人にとっては身分証明に、顧客にはガイドの質の保証になり、両者にとって大きなメリットにつながるからです。

※4│業務独占とは、資格を取得していなければ、特定の業務が行えないことで、医師や公認会計士などが該当。一方、名称独占とは、資格取得者のみが特定の資格名称(肩書き)を名乗ることができ、栄養士や救急救命士が該当する。

日本山岳ガイド協会 常務理事 武川俊二さん 日本山岳ガイド協会テキスト
日本山岳ガイド協会では、独自のガイドマニュアルや各種教本、筆記試験の過去問題集などを刊行している

ガイドは「サービス業」

――現在のガイドカテゴリのすべてが国家資格になるのですか。

武川:めざしているのは、登山ガイドと自然ガイドです。山岳ガイドは、登山ガイドの業務範囲を含んでいるので、国家資格を有した山岳ガイドとなります。また、スキーガイドは、登山ガイドステージⅡを同時に取得しているので、国家資格を有したスキーガイドとなります。

――てっきり山岳ガイドが中心になるかと思っていました。

武川:それは欧米型の国家資格ガイドをイメージしているからでしょう。実をいえば、国の担当者もそうでした。でも、日本の山は、雪と岩がメインのヨーロッパとは違います。もちろん日本にも岩登りや雪山をする人はいますが、圧倒的多数は雪のない時期に登山道を歩く人たちです。それゆえ、ガイド制度も、そういうマスの登山者を相手にする登山・自然ガイドを中心に整備していくべきなのです。

――これからのガイドに求められる資質とは。

武川:ガイドは「サービス業」だと認識し、振る舞うことです。ひと昔前のガイドは「指導者」「リーダー」として、顧客に対して上からの目線で接していました。しかし、今はそういう時代ではありません。ガイドを〝仕事〞として成立させるには、お客様を120%満足させて、「また山に行きたい」と思ってもらうことが不可欠です。

そのためにガイドは、自身のガイディングや自然解説のスキルを向上させ、毎回の山行でお客さんに楽しんでもらえるような創意工夫をしなければなりません。また、環境保全に貢献する意識をもつ必要もあります。

――登山者にとって、ガイドと登るメリットはなんですか。

武川:山の多様な魅力を知ったり、今の自分のレベル以上の山に導いてもらえることだと思います。私自身、あるお客さんを6年かけて北アルプスのジャンダルムへ連れて行ったことがあります。その方はもともとやさしい山歩きがメインで、ご自身でも「ジャンダルムに行きたいけど、自分にはムリかな」と諦めていました。しかし、いろいろな山に登って経験を積み、ついにはジャンダルムを含めた穂高の稜線の縦走を成し遂げました。下山後、感激して涙ぐんでいる姿を今でも鮮明に覚えています。

雪のない季節に登山道を歩いている人――つまり、日本の登山人口のマスを占める人たちに、山の楽しさや魅力を伝え、いかに次の山に継続的に行ってもらうか。そんなガイディングができるガイドを増やすことは、登山者のためでもあり、日本のガイド業全体にとってもプラスになります。

われわれが国家資格化でめざしているのは、まさにそういうことなんです。登山ガイドが国家資格になることはガイド自身と、お客さんの双方にメリットがあると考えています。

日本山岳ガイド協会 常務理事 武川俊二さん

写真=松井進

取材・文=谷山宏典

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