登山道具の代表格であるバックパックの中には登山者の個性が詰まっています。ウェア、調理器具、テントなど持ち物だけではなく、何がどこに入っているのか、使うタイミングに合わせたパッキングも十人十色。バックパックの中には、登山者それぞれに考え抜かれた世界があるのです。
登山装備とパッキングに正解はない
私の基本装備としては、レインウェアを含む天候に合わせられる衣服、水分を入れた食料、地図、万が一のヘッドライトがあります。これに水筒、調理器具を入れたハイキング装備だと20L程度の容量があれば個人的には十分。
時にはテント、寝袋、ピッケルや、クライミング用のロープ・スリングなどの登攀道具などを持って行く場合もあります。そうなるとバックパックの容量は30L以上となり、日数や登山形態で容量やバックパックの選定を変えていきます。
しかし、人によって荷物はもっと多くなることもありますし、同じものを持って行くとしても、大きなサイズのバックパックでないと入らないという人もいます。 何をどれだけ持って行くか、どうパッキングするかという答えはひとつではありません。自分の部屋と同じで、自分が快適に行動できればそれでいいのです。
パッキング方法の基本編
部屋の家具にも使いやすさや動線をふまえた配置があるのと同じように、パッキングにも使いやすさや取り出しやすさでの基本の考え方はあります。それを知った上で、何を優先させるかを決めて実際に取り入れていきます。
◆隙間をなくす
丸いコッヘルなどの調理器具や、特殊な形状をした登山道具は、デッドスペースを生みやすくなります。隙間が多いパッキングは移動中に荷物が揺れやすく重心がブレるため、疲労軽減のためにもバックパックの中の隙間はできるだけ埋めるように詰めるのが良いです。ウェアといった柔らかいものを詰めたり、薄い隙間ならまな板を滑り込ませることもあります。
◆重いものは上へ配置
重心が下がると、実際の重さ以上の重量感を感じることがあります。長時間の移動となる登山では、重いものを意識して上の方、かつ背面に近い位置に配置すると、比較的重量を感じずに背負うことができ安定します。
◆水は特に重い
水は誰もが確実に持っていくものであり、水場がない山行では携行する量も必然的に増えます。1Lで1kgと考えると、ルートや日数によっては恐ろしい重量になることも。重く使用頻度も高いので、必然的に上に配置しておきたい代表格です。
◆使う順番を想定して
ポケットの少ないバックパックだと特に、荷物を入れる順番は重要です。寒くなったから防寒着を、と思ったら一番下にあったりすることは珍しくありません。登山に慣れてきたら、行動開始から登頂、下山までのスケジュールを想定しながらパッキングしてみると良いです。この道具、実は要らなかったな、という事実に気づくきっかけにもなります。
◆各アイテムの防水対策
衣服、山道具を濡らさずにドライに保つことはとても重要です。雨で濡れると衣服はすぐには乾かず、食料が湿れば保存期間は大幅に短くなります。地図においては濡れて見えなくなったら遭難にもつながります。バックパックを包むレインカバーだけでは防水対策は全く足りません。個別にスタッフバッグやジップロック、雨が確実な日は、バックパックの内側に大きなゴミ袋を重ねる対策なども有効です。
◆物の配置を定番化する
ベテラン登山者には、同じバックパックを何度も買い替える人や、ボロボロになっても使い続ける人がいます。決まったアイテムを決まった場所に配置しておくことで、どこに何があるか探す必要がなくなり、登山中のストレスが大きく減るからです。雨蓋には貴重品、内部のメッシュポケットにはライターやヘッドライトなど、使い勝手を吟味して配置を固定していくのが大事です。
パッキング方法の応用編
◆スタッフバッグを活用する
スタッフバッグを積極的に使うことで、どの種類の道具がまとまっているかを瞬時に判断することができます。サイズやカラーバリエーションも豊富なので、食器類は黄色、ウェアは緑、とバッグのカラーを決めておくことで、荷物が見つけやすく出し入れがよりスムーズになります。
◆テントや寝袋のパッキング
テントは柔らかい生地の本体と、ポールやペグといった硬い金属製品で構成されています。収納袋に全て入った状態でそのまま入れると場所をとってしまいますが、本体とポールなどを分けることでデッドスペースができにくく、結果的にコンパクトにパッキングすることができます。同じく寝袋も、丸めて圧縮した状態が一般的なパッキングですが、包み込むように配置する方法もあります。その際は防水や生地の破けにも配慮しておきます。
◆道具の空白部分を利用する
コッヘルをはじめとした調理器具に用いられるスタッキング。コッヘル以外にもケトル、フライパンといった空洞部分がある道具が幾つかあります。中にバーナーヘッドやコップ、マッチなどの小物を入れ、何度も言うように「隙間をなくす」という基本を徹底的に行うと、荷物のデッドスペースはさらになくなります。
◆外付けオプションの活用
ウエストポーチやサコッシュを身につけたり、ハーネス部分に小物入れを付けたり、バックパックに外付けできるアイテムも便利です。場所をとってしまうヘルメットはヘルメットホルダーで外付けしたり、夏の行動中の補給を想定してドリンクホルダーを付けるなど、効率的な収納だけでなく、ストレスのない行動にも貢献できるのが外付けオプションです。地図をドローコードに挟んでおくといった小技もあり、工夫次第で多様な収納ができます。
◆あると便利なガベッジバッグ
山ではゴミは持ち帰るのが基本です。ただ、携帯トイレや使ったティッシュなど、バックパックに入れて持ち帰るには抵抗があり、一般的な袋では臭い漏れも気になる場合があります。 モンベルのガベッジバッグはこうした特別なゴミを収納することを想定したバッグで、バックパックに外付けも可能です。公共交通機関を利用する場合のエチケットとして持っておくのも良いと思います。
まとめ
パッキングが上達すると、登山中のストレスが大きく減ります。「あれ?どこにあるんだっけ」というストレスから解放されると、無駄な動きがなくなり行動がスムーズになり、体力的にも精神的にも負担が軽減されます。余裕ができて負担が軽く快適に歩けるということは、安全にもつながります。
パッキングに正解はない、個性があっていいとはいえ、現状で登山中の動作が快適ではなく、何かしら不便を感じているのならそれは考え直してみるべき。頭を使えば使うほど、試せば試すほど、パッキングは上達します。登山技術のひとつとして、腕と個性を磨いてみてください。