クライマー アンジェリカ・ライナーさん|クライミングに男女は関係ない

クライマー アンジェリカ・ライナーさん 山歩のひと

フリーペーパー『山歩みち』2015年冬 018号掲載

※この記事はフリーペーパー『山歩みち』に掲載されたものに一部加筆、修正を加えたものです。基本的には取材時の内容となっておりますので予めご了承ください。

Profile ※2015年時点

アンジェリカ・ライナー 1986年、イタリア生まれ。アイスクライミングのワールドカップでは幾度となく優勝し、2012年には年間チャンピオンに。世界最難ルート「SteelKoan(M13+)」(ミックス)や「Clash of the Titans(WI10+)」(アイス)を女性として初めて登った。

アイスやミックスクライミングの世界最難ルートに果敢に挑戦し、女性初登という輝かしい記録を打ち立ててきた、アンジェリカ・ライナー。自らを「負けず嫌い」と語る彼女の言葉は山を愛する日本の女性たちの心にも強く響くのではないだろうか。

アックスで登る感触に魅了されて

クライマー アンジェリカ・ライナーさん
2013年12月、カナダのシネプレックスケイブ「Steel Koan(M13+)」の女性初登を成し遂げる

――「Steel Koan」(※1)の写真、すごいですね。読者には、なぜあなたが天井のような岩壁にくっついていられるのか、わけがわからないと思います。

アンジェリカ:アイスやミックスクライミング(※2)をやったことがない人には、なにがどうなっているのか、想像もできないでしょうね(笑)。

Steel Koanのような水平ルーフの高難度ルートを登るには、なにより日ごろのトレーニングが重要です。私は週5〜6日、1日3〜5時間はトレーニングをしています。内容は、ボルダリングやスポートクライミングで、ドライツーリング(※3)ができる施設ではアックスで登っています。10㎏のザックを背負い、両手にアックスを持って懸垂したりもしています。

※1│カナダのシネプレックスケイブにある世界最難のミックスルート。

※2│アイスクライミングは凍った滝や氷壁を登ること。ミックスクライミングは岩と氷雪の混じった壁を登ること。

※3│アックスやアイゼンを岩壁にひっかけたりしながら登る、ミックスクライミングのテクニック。

――メンタル面については。

アンジェリカ:もちろんメンタルの強さも必要です。とくにSteel Koanのときは滞在期間が3日間しかなく、しかも初日は気温がマイナス25℃まで下がり、寒すぎてトライすらできなかった。チャンスは最後の1日しかなく、限られた時間でベストを尽くすためにかなり集中しました。自分の持っているすべてを全開にして登ったという感覚です。

――クライミングをはじめたきっかけを教えてください。

アンジェリカ:私はイタリアの山岳地帯の生まれで、子供のときに母親がよくハイキングに連れていってくれたんです。その後、12歳のときに地元の町にクライミングジムができたのをきっかけに、クライミングもはじめました。

――アイスは19歳からと聞きましたが、なにに魅了されたんですか。

アンジェリカ:アイスやミックスって、女性はあまりやらないんです。アックスを使うのは女性には難しいし、冬のルートに出るのはあまりにも寒すぎますから。でも、私は初めてアックスを握ったときから、アックスで登る感触に夢中になってしまって。

普通のクライミングとの最大の違いは、アックスではホールドの感覚がわからないことです。手では絶対に持てない小さなホールドにピックをひっかけたとき、ちゃんと体を支えてくれるのか、それとも外れてしまうのか、体重をかけるまでわからない。わからないからこそ、高度なテクニックが要求されます。はじめは「落ちるんじゃないか」と怖かったりもしましたが、それ以上に技術的なハードルを乗り越えていくことに魅了されました。

「女だからできない」は絶対にないと思う

――日本ではあなたのような美しい女性が活躍をすると、「美人アスリート」「美しすぎる〇〇」とメディアで紹介されますが、イタリアではどうですか。

アンジェリカ:イタリアでは、アイスクライミングはポピュラーではないので、一般の方に注目されることはほとんどないですね(笑)。

――イタリアでもアイスクライミングはマイナーなんですね。

アンジェリカ:アイスも含め、クライミングをしている人の数はそれなりにいます。問題は、一般のクライミングには専門の機関があるのですが、アイスクライミングにはそれがないことです。そのため、メディアを通じたPR活動などは知り合いに協力してもらいながら、自分たちでやらなければなりません。

大会やツアーで外国に行くのも大変で、ビザを取得したり、フライトやホテルを予約したりも自分でやるし、スポンサーがつかない場合の費用は自前となります。

――登っていて、男性との差を感じることはありますか。

アンジェリカ:アイスクライミングやドライツーリングでは、女性は男性と同レベルのパフォーマンスはできないといわれています。しかし、高難度のルートを成功させる女性クライマーが次々に出てきているので、これからは男女関係なく同じルートに挑戦できることを証明していかなければいけないと思っています。

――日本でも、登山やクライミングを楽しむ女性が増えています。なにかアドバイスを。

アンジェリカ:男性と女性では筋力や体格などの違いはあります。でも、女性の方が体重が軽いなどクライミングに有利になる点もあるはずです。それに技術的には男性に勝ることは充分できます。ジムだろうが、アウトドアだろうが、女だからできないということは絶対にないと思います。

写真=田中由起子

取材・文=谷山宏典