カナダでのコロナ禍|カナダにおける国立公園閉鎖を踏まえたひとつの提言

カナダの国立公園 コロナ関連

新型コロナウィルスにより、あの広い全土の国立公園が閉鎖となったカナダ。その実情から、コロナ禍のなかでも登山者ができることについて、同地在住の日本人ガイドに語っていただきました。


僕はカナダのバンフという国立公園のなかにある小さな町に住んでいます。今日(4月5日現在)で丸三週間、外出自粛、一切の野外活動禁止状態のなかで、この記事を書いています。

日本の実情に必ずしも当てはまるわけではありませんが、カナダにおける今回のコロナ禍の始まりを自分なりに整理し、今何ができるのか、そのあたりについて考えていきたいと思います。

正直なところ3月頭になるまでは、カナダでのコロナ禍に対する一般認識は、アジアの遠い国で起こっている他人ごとであった気がします。それがヨーロッパでの感染拡大を受けて、アメリカがヨーロッパからの入国制限(※1)を始めると、事態が急変しました。この頃までのカナダ政府は、WHOが定めた感染国を通過した場合、二週間の自主的隔離を求めるだけで、どの国からも入国することはできると発表していました。

その後、3月16日になると、世界的スキーリゾートのウィスラーが一週間の自主的閉鎖に踏み切り、その余波を受け、カナダ西部のスキー場は次々と自主的閉鎖となりました。 理由は、ゴンドラという閉鎖空間やカフェテリア、トイレなど、人が集中してしまう場所を消毒しきれないから、ということでした。しかし、当初は一週間だけの閉鎖といっていたスキー場も、そのままシーズンエンドを迎えることになりました。

スキー場が閉まるということは、僕らのように山間の町に住む人間は、同時に職を失うことにも直結します。僕が住むバンフという街は、基本、人口の約半分がアウトドア・観光関係の仕事についています。人口約8000人のうち、じつに4000人が解雇されることになりました(4月5日のバンフの失業率は85%)。

スキー場が閉鎖されることにより、たくさんの人が時間を持て余すことになりました。結果、クライミングジムに人が殺到することとなりました。すると、閉鎖された空間で、同じホールドに触るクライミングジムは非常に危険ということになり、クライミングジムもまた、自主閉鎖に追い込まれました。

余談ですが、北米にはマスクをつける文化がありません。理由は、マスクに慣れていない人たちはマスクを触りがちで、その手でほかの場所を触るので、WHOがマスクを敬遠していたからです。ただ、今回コロナ禍により、その世界基準が変わるかもしれません。

ただし、この時点でも街は正常に動いており、誰もソーシャルディスタンス(2m)を守る人はいませんでした。スーパーで販売されているトイレットペーパーがなくなる程度でした(※2)。

すると、これはよい機会とキャンピングカーに乗り込み、暖かいアメリカにクライミングトリップに出かけたり、まだ雪がたくさんあるエリアにバックカントリースキーに出かける人が急増しました(※3)。そして、このことがきっかけとなり、アメリカのビショップ(※4)では、まずクライミングをしない地元の人たちが「新型コロナを自分たちの町に持ち込まないで欲しい」と声を上げ始めました(※5)。さらに、限られた医療資源の問題もあり、地元の人間以外は宿に泊まれないという措置を自治体が取り始めたのです。これをふまえ、カナダでも、スコーミッシュやスカハなどのクライミングエリアがある町が同調したのです。

この頃から、大都市のレクレーショナルセンターや温水プール、フィットネスジムが閉まりました。政府は、連日のように外出は控えるようにと訴え続けていましたが、その当時、カナダの人は真剣に考えていないようでした。

そして、3月21日の週末に突入します。職を失った人、街にいてもやることがない(普段アウトドアや山をしない)人が行き場を失い、国立公園や州立公園に溢れかえるのです。車の乗り合わせ(感染の拡大)や路上駐車、ゴミの散乱、登山道をたくさんの人数で歩く(ソーシャルディスタンスの無視)などが起きました。

ここで、決定的な事件が起きます。ハイキングしていた人が凍ったトレイルで足を滑らせて怪我をし、救助を要請したのです。そのハイカーは病院で怪我の治療を受けましたが、その後、コロナ検査で陽性と判断され、救助に関わった救助隊員、ヘリのパイロット、救急救命士の全てが二週間の隔離を余儀なくされ、救助隊の機能が著しく低下。これを契機に、国立公園の閉鎖に進んで行くことになったのです。

これがわずか一週間程度でおきた出来事でした。

一方で、閉鎖される前の最後の週末(21日~22日)、カナダ国立公園局は、感染爆発の危険のため、政府が自粛要請、自宅待機を進めていた時ですら、健康にいいアウトドア(登山)を国民のためになんとか提供しようとがんばってくれました。政府と話し合い、感染拡大を防ぐための具体的なルールを制定し、公表していました。

  • 登山口までの車の乗り合わせはしない。一人に対して車に一台を推奨
  • 2mのソーシャルディスタンスを守ること
  • 登山道が平らで日帰りができる、危険度が非常に低いアクティビティまたはコースを選ぶこと
  • 登山で楽しんだ後は、飲み会や食事で町に出ず、家にまっすぐ帰ること

もし、あの時、はありませんが、みんながこの4つのルールを守っていれば、国立公園閉鎖には至らなかったかもしれません。

一般に日帰り登山やハイキングは、事故の可能性は非常に少なく、適度な運動は健康によく、他のスポーツに比べてソーシャルディスタンスを保ちやすいと考えます。ですが、今のカナダではもうそれをすることができません。日本は今、自粛ムードとは聞いていますが、カナダと異なり、法律上での制限はありません。これは、失った今にして気づいたことですが、とてもすばらしいことなのです。

最後に、カナダのコロナへのガイドライン踏まえた僕からの提案をしたいと思います。

  • 前提として自治体が出している情報に従い、基本、外出を控える(山やクライミングに行かない)こと
  • 自分に優しくすること。空き時間を有効に使おうというのは自分を追い込むことになります。のんびりいきましょう。
  • 他人の行動や判断(例えばこの状況で山に行く)に対し、発言・発信するのは控えること。自分の意見はもってもよいですが、他人に発言するときは慎重に。
  • 自分が山に行ったり、クライミングに行ったりしたことをSNS等に投稿することは控えること。 自分ではそのつもりがなくても、それによって自粛している人の心を乱す可能性があります。

こうした日々実践できる努力の先、コロナ禍が少し和らいで来た時に、自分の住む都道府県の里山を楽しんでみてはいかがでしょうか。新しい発見があるかもしれません。山が遠い地域に住んでいるのであれば、自分の町のウォーキングコースや、歴史探索路などの散策もいいのではないでしょうか。

人気の山域にいくというのはそれだけ感染拡大の可能性があります。クライミングジムなどの室内の運動施設に行くことも、今はおすすめできません。完全に終息するまでは室内は一番危険な場所と認識しておいたほうがいいでしょう。また、山での宿泊は閉鎖した空間にいることになります。日帰りまたはテント泊はどうでしょう。日帰りやテント泊なら、お財布にもやさしいはずです。登山後の温泉や食事、道の駅等の利用も考えましょう。カナダの結果を見ると、これらにより感染拡大があった経緯があります。

いつ終息するかわからないコロナ禍だからこそ、心身ともに健康であることが大事だと思います。感染しない、感染源とならないために、まずは自身の健康に留意し、今は・未来のための自粛・が必要な時だと思います。

山を愛する人たちすべての健康を祈っています。では。

カナダ、バンフより。


※1|3月13日から30日間の施行。直近14日以内に欧州を訪れたひとを入国制限していた

※2|3月16日時点でのカナダの感染者数は415人、日本は839人。3月21日になると、カナダでは約1300人、日本は約1000人となり、以後、カナダの感染者数は日本を越えた

※3|バンフなど、スキータウン、クライミングタウンと呼ばれる町に住んでいるひとのなかでも、とくに季節労働者は、季節労働の合間になると旅行に出かける傾向にある。

※4|ボルダリングが有名な町

※5|北米のクライミングタウン、スキータウンは人口が一万人未満の小さな町がほとんど。

※6|筆者在住のアルバータ州の山は基本的に州立公園か国立公園で、閉鎖=登山不可を意味する