【推し企画】山歩みちライターと編集部が、自分の好きな登山に関する「推し」映画や本などについて個人的な想いのみで語っていきます!
『山と食欲と私』あらすじ
食べることが大好きな私。グーグルマップには行きたいお店のブックマークが300件もたまっており、休日は友人とグルメツアーを計画してお店を巡ったりしています。登山を始めた頃から、いずれ自分でも山ごはんを作りたいと常々思っていたのですが、ネットでこのマンガを見つけた時には思わず「これだ!」と叫んでしまったほど。表紙には美味しそうな山ごはんがズラリと並んでいて、読む前から「どんな味だろう…」と妄想が止まりません。
マンガ『山と食欲と私』は、自らを “山ガール” ではなく “単独登山女子” と豪語する、27歳会社員の日々野鮎美が、山頂で山ごはんを堪能するというグルメ要素盛り沢山なストーリー。毎回美味しそうな山ごはんを、ひとりでのんびり景色を眺めながら食べたり、道中出会った登山者と一期一会の出会いを楽しみながら食べたり、友人とわいわい楽しみながら食べたり。
しかも、ただ登って食べるだけではなく、2泊3日の縦走や名峰への挑戦など、その過程も読み応え抜群なのです。 また、登山ノウハウまで学べちゃうところも魅力のひとつ。急坂の登り方や毒虫に刺された時に使うポイズンリムーバーなど、様々なテクニックが詳しく解説されています。
さらに、表紙カバーを外すとその巻に出てきた登場人物たちの装備や山道具がイラストで紹介されていて、道具選びの参考にもなります!遊び心のあるおまけページまで、情報モリモリなんです。
作者は男性!山ごはんの日も制定!
新潮社の「くらげバンチ」というWEBマンガサイトで連載されていて、最新話やバックナンバーも一部無料で読めるという便利さ。試し読みで雰囲気を知ることができるのは嬉しいですよね。もちろん漫画本として書店でも売られています。
画風やストーリーから作者はでっきり女性だと思いこんでいましたが、なんと信濃川日出雄さんという男性漫画家!作中に出てくる登山知識や装備は、作者本人や友人の実体験が基になっているそうです。
そして何といっても驚いたのが、このマンガがきっかけで8月5日が「山ごはんの日」と認定されたということ!出版元の新潮社が一般社団法人日本記念日協会に申請し、2018年に正式認定を受けています。
より多くの人たちに山ごはんの楽しさを知ってもらいたいという想いが込められており、「や(8)まご(5)はん」という語呂合わせで決められたそうです。しかも主人公の鮎美は「山ごはんの日 公式もぐもぐアンバサダー」に就任。山ごはんの日を盛り上げるために、応援フライヤーには山ごはんの日の楽しみ方も掲載されています。
信濃川さんのブログではコラボ商品や新刊情報、作品の裏話などが随時アップされていますのでぜひチェックしてみてください。
幸福感あふれる山ごはんメニューべスト3
このマンガを知人におすすめする時は、「幸せそうに山ごはんを食べる主人公に、読んでいる自分も幸せな気持ちになれちゃう登山マンガ」と紹介しています。山を登りたくなるマンガじゃないのかとツッコミがきそうですが、もちろん登山欲も高まるのは間違いありません。
作中に出てきた山ごはんで私が特に魅了されたメニューのベスト3を紹介します!
第3位 あさり缶 with 白ワイン&バター
南アルプスの甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳の2泊3日縦走登山にて。北沢峠のベースキャンプ地で作った夜ごはんです。あさりに絡むとろりと溶けたバターを想像するだけで食欲がそそられる一品。
あさり缶に白ワインとチューブのバターを入れて湯煎するだけなので簡単ですし、中身をクッカーに移さず缶詰のまま調理するところがまた山ごはんらしい!白ワインとバゲットと一緒に、夜のおつまみとしても最適ではないでしょうか。
2位 甘じょっぱフレンチトースト
のんびりハイキングの日に頂上で食べたお洒落なおかずスイーツです。フレンチトーストをベーコンで挟んで焼き上げるという大胆発想!
じゅうじゅうとベーコンを焼き上げる音や、メープルシロップのフライパンで爆ぜる音が今にも聞こえてきそうで、作る過程を読んでいるだけでもお腹が空いてきます。幸福感に浸る鮎美の表情がたまりません!
1位 ひやあつ残雪そうめん
残雪が残る山頂で作ったそうめんアレンジです。あらかじめ雪の中でそうめんを冷やしておき、多めの油で炒めた夏野菜(ナスやズッキーニなど)をめんつゆでグツグツと煮立てます。野菜にいい具合にめんつゆがしみ込んだら冷やしておいたそうめんを投入!
めんつゆがしみ込んだ夏野菜と熱々のつけ汁、ひんやりとしたのどごし抜群のそうめんがベストマッチ。しみしみ野菜を噛んだ瞬間、口の中でじゅわりと滲み出す旨味…。美味しくないはずがない!雪のない山でも保冷剤などで冷やしておけば、どの季節でもひやあつそうめんを堪能できると思います。
鮎美が食べている山ごはんは珍しい食材は使わず、自宅にあるものやスーパーで買える食材で簡単に作れるお手軽感があります。そしてたまに失敗作があるのもリアリティがあってまた面白いのです。パンを焦がしたり、挑戦してみた味が微妙だったり、そういった失敗も含めて楽しむのが山ごはん。鮎美の山ごはん愛が伝わってきます。
今すぐ山に登りたい!ワクワクシーンベスト3
作中では山ごはんにフォーカスを当てていますが、もちろん登頂するまでの道中もしっかり描かれています。登っている時の息遣いや筋肉の躍動感など、ひとコマごとにリズミカルに表現されていて、読んでいる私も山を登りたくて身体がウズウズ。雄大な自然にも心ときめきます。
特に登山欲が沸き起こったシーンの個人的ベスト3を紹介します!
3位 五色沼越しの奥日光
職場の同僚たちと群馬県にある日光白根山へ。下山後にキャンプ&バーベキューということで、途中まではロープウェイで登り、友人とわいわい話しながらのんびり登山でした。単独登山が多い鮎美もこの日ばかりは楽しそうです。
岩や高山植物だけの荒涼とした景色から一変、眼前にはコバルトブルーの五色沼、その周りには奥日光の男体山や女峰山が悠然と広がり、鮎美の友人も思わず言葉を失うほど。読んでいるだけでその美しい情景が頭に浮かびます。
2位 浅間山と巨大な噴火口
浅間山は長野県と群馬県の境にある標高2,568mの活火山であり、噴火警戒レベルによっては入山できるコースが制限されます。江戸時代には大規模噴火の記録も残っており、現在も火山活動が観測されている状況です。鮎美が登っている間もいつ噴火するかわからない緊張感があり、そのドキドキ感がこちらにも伝わってくるようでした。
また、特に印象的だったのが、途中出会った登山者が噴火口に向かって叫んでいるシーン。浅間山の噴火口の直径は約250m、火口底までの深さは200m。日頃溜め込んでいる鬱憤やストレスを、その大きな噴火口に向けて吐き出している様はなんとも爽快!私も浅間山のでっかい口に向かって日頃のストレスを発散したくなりました。
1位 厳冬期の東天狗岳
友人からの急なお誘いから始まった、真冬の2泊3日八ヶ岳縦走。八ヶ岳は山梨県と長野県に跨る山塊で、真冬ともなれば厳しい寒さと降り積もる雪にピッケルやアイゼンなどの重装備が必要となります。今回は天狗岳から硫黄岳への稜線を歩くコースで、登山口の標高ですでに1,800m。気温はマイナス10度、見渡せど雪の白さと空の青。ある種の神々しさがあります。
途中出会った登山者が雪山を歩く感覚を、「自分の足で身体で、自分自身を、”自分の命”を担いで歩く誇らしさ」と語っています。まさに自然の息吹を身近に感じ、生きている実感を与えてくれる、そんな魅力が雪山にはあるのだと思います。
私はまだまだ挑戦できるレベルではありませんが、いつか自分の肌で雪山の生命力を感じたいと思わせてくれる山行でした。
まとめ
登山マンガや映画というと、山の厳しさや名峰への挑戦を描いた作品が多いですが、最近はゆるりと登山を楽しむ作品も注目されてきているように思えます。登山というと、きつい、大変などのイメージで、挑戦をためらっている方もいらっしゃるかもしれません。私も友人を登山に誘っても「きつそうだから…」という理由で何度か断られたことがあります。
『山と食欲と私』はそういったイメージを払拭させるいいきっかけとなる作品だと思っています。私もこの作品で、山ごはんという新たな山の楽しみ方を見つけました。ぜひみなさんも新しい山の楽しみ方を見つけてみてください!