映画『春を背負って』これまで山小屋に頼り過ぎてはいなかったか

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【推し企画】山歩みちライターと編集部が、自分の好きな登山に関する「推し」映画や本などについて個人的な想いのみで語っていきます!

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『春を背負って』あらすじ

『春を背負って』は私がちょうど山小屋で働いていた時期に公開された映画でした。山小屋がメインの題材だったので興味を持ち、休暇で下山した時に映画館へ観に行きました。

立山連峰で山小屋〝菫小屋〟を営む厳格な父(小林薫)に育てられた長嶺亨(松山ケンイチ)。社会人になった亨はそんな父から遠ざかるように金融の世界で、会社の歯車として毎日を過ごしていた。そんなある日、父の訃報が突然届く。帰郷した亨の前には気丈に振る舞う母(檀ふみ)、その姿を沈痛な想いで見守る山の仲間たち、そして見慣れぬ一人の女性・高澤愛(蒼井優)の姿が。彼女は心に深い傷を負い、山中で遭難しかけたところを亨の父に助けられた過去があった。父が遺した菫小屋と、父の想いに触れた亨は、都会での生活を捨て小屋を継ぐことを決意する。山での生活に悪戦苦闘する亨の前に、父の友人と名乗るゴロさん(豊川悦司)が現れる。世界を放浪してきたゴロさんの自然に対する姿勢や愛の天真爛漫な笑顔に接しながら、亨は新しい自分の人生に向き合い始める。

(C)2014「春を背負って」製作委員会 Amazon

メイン写真は、映画の舞台である山小屋 “ 菫小屋 ” のロケ地となった立山の大汝休憩所。この小屋でのシーンはたくさん出てきます。監督はこちらも日本の山岳映画『劔岳 点の記』を撮った木村大作さん。

山小屋業務の幅広さと責任の重さ

一般的に山小屋は旅館業として扱われますが、宿泊所としての業務だけでなく様々な仕事があります。まだ雪が残る山に入り、雪崩などの被害に遭っていないかなどの点検から始まり、登山道の整備、荷揚げの準備なども行います。また、入山前には救急救命やヘリの荷揚げの講習などを受けて、安全に営業できるよう勉強もしています。繁忙期になると、朝早く起きて食事の準備や片付け、部屋の掃除、軽食の提供、宿泊受付、夕飯の準備、先の予約管理と、一日中大忙しとなります。

ただ、この中に救助の業務はありません。救助は、その道のプロである各地域警察の山岳救助隊や消防の方が行います。もちろん、山小屋のスタッフは、救助のための場所や情報の提供、様子を見に行くことはありますが、基本的には自ら悪天候の中で救助に行くことはありません。映画では主人公の長峰亨が吹雪の中、登山者を助けに行くシーンがあるのですが、その点には違和感がありました。

私が働いていた時にも、動けない人がいるという情報をもらったことがありました。その時はお天気が良かったことと、小屋から1時間くらいの場所でしたので、様子を見に行きました。ケガのないことを確認して山岳救助隊に連絡し、その指示のもと登山者にライトを渡して一度山小屋に戻りました。その後、山岳救助隊が登山者を担いで山小屋まで運びました。結果として疲れが原因だったようで、大きな事故につながることなく無事に下山することができたようです。

他にも、骨折しているであろう登山者を、山岳救助隊が来るまで山小屋で看病していたとういう事例もあります。夜だったのでヘリは飛ばず、救助隊の到着までひと晩かかりました。救助隊との連絡は取れるとはいえ、ひと晩中付き添うのは苦労が大きいし、実際に付き添った山小屋の人は、悪化しないか心配だったと言っていました。

登山のリスクを低くするには

映画を見た後は、改めて登山の危険性を感じましたし、各自がしっかり考えてリスクを低くする行動も必要だと思いました。映画の中で描かれているように、大雨の時には出発しないことや、雪庇などの危険な場所には行かないことはもちろんですが、危険はもっと身近にもあります。

例えば、ポイズンリムーバー。標高が高くなるにつれ虫はいなくなりますが、登山口付近にはスズメバチなどの巣があります。登山口でスズメバチに刺されて、ドクターヘリを呼んだとういう事例もあるのです。ポイズンリムーバーがあれば、刺されてすぐに毒を抜くことができ、状態の悪化を防ぐことができます。

他にもGPSがあると、遭難のリスクを小さくすることができます。ただ、GPS を持っていても遭難する人はいます。 持つだけで安心するのではなく、登山前にしっかりと使い方を学んでおくのが重要です。せめてメンバーの誰かが持っているように準備しておくのが良いと思います。

私は、いつも包帯や三角巾などのファーストエイドキットを、出しやすい場所にパッキングしていますし、仲間と事前にエスケープルートや下山の判断などを話し合い、登山計画も作成して臨むようにしています。GPSの専用機器は高価ですが、スマートフォンがあれば YAMAP などのオフラインでも使えるアプリで代用することもでき、ファーストエイドキットは市販もされています。

山小屋イメージ:南アルプス・百間洞山の家(2020年は休業)

今シーズンはコロナの影響もあり、営業をしない山小屋もあるので注意が必要だと思っています。普段なら山小屋のスタッフがいたから救助隊へ連絡することができた、ということになりますが、今シーズンはそれができません。水や食べ物が足りなくなった時、トイレに行きたい時、大雨や強風の悪天候の時、「とりあえず小屋まで頑張ろう」と頼りにする、その山小屋がないのです。いつも以上にしっかりとリスクを管理して、自分で対処できるような準備が必要だということになります。

まとめ:山小屋の役割を改めて認識

映画のロケ地として選ばれた立山

登山での事故やケガの可能性はゼロにはできません。できる限りそうならないように、あらゆる準備をして山に臨むことが大事です。山小屋勤務中にそういった経験をしたり、この映画を観てから、私自身も持ち物点検やルート・行程の確認を今まで以上にするようになりましたし、一緒に行く仲間にも映画を紹介しました。

この映画は立山の雄大な自然が描かれている点に注目が集まりますが、一方では山小屋で働く人々の姿や登山の危険性も描いています。今までの自分の登山を振り返り、久々に再開する前に改めて観て欲しい作品だと思いました。

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この記事を書いたひと

大学卒業後に山小屋で働き、山の魅力に取りつかれました。南アルプス南部の赤石岳や荒川三山などをメインに、ときどき北アルプスや八ヶ岳へ。ソロでもパーティーでもテント泊でも山小屋泊でもなんでも活動中。

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山歩みち