ただの映画好きの山歩みち編集部員が、映画に関する深い知識はありませんが、小市民の浅い視点で、山やアウトドアに関する映画を紹介していきます。
『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』あらすじ
ヒマラヤ地域の平和のため『ヒマラヤ公約』を締結する会議開催前、一機の飛行機がエベレスト南部、通称デスゾーンに墜落。その飛行機には、平和のカギを握る重要機密文書が載せられていた。。。
墜落から3日後、ヒマラヤ救助隊チーム・ウィングスに、インドの特別捜査官を自称する2人の男、ヴィクターとマーカスから、多額の報酬と共に機密文書を探す依頼が入る。チーム・ウィングスは“ヒマラヤの鬼”と呼ばれるジアン(役所広司)隊長中心に、エベレストで遭難した恋人を探し出すために入ったシャオタイズ(チャン・ジンチュー)、若く情熱を持ったヘリパイロット・ハン(リン・ボーホン)らが日々危険なミッションに臨んでいた。またジアンは、優秀ながら無謀な行動の多いシャオタイズに亡くした娘の面影を重ねていく。
危険なミッションと感じながらも、財政難に悩むチーム・ウィングスは依頼を引き受ける。残された時間は48時間。酸素ボンベ残量も限られる中、死に至る場所・デスゾーンに向けて決死の登頂を始める。刻一刻と時間は過ぎ、様々な思いと世界規模の陰謀が絡まる中、世界最高峰の頂には、予想もつかない事態が待ち受けていた――。
映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』公式サイトより
これは山岳映画ではない、アクション映画なのだ
「主演・役所広司 × プロデューサー・テレンス・チャン」。
これがまず宣伝で推し推しになっている情報です。テレンス・チャンさんは、トムクルーズ主演で大ヒットした『M:I-2』や、三国志を題材にした『レッドクリフ』(金城武さんが出演してました)のプロデューサーとのこと。どちらも観たことがありましたが、特に『M:I-2』面白かったなあと覚えていました。
役所さんが山岳映画に出ると? しかもあんな派手なアクションを? 山の映画で? まさかまさか、でもそんな役所さんは観たことがない。これは観てみたい!すっかり宣伝にのせられています。
でもよくよく考えると宣伝が「俳優 × 監督」ではない。素朴な疑問で、なぜプロデューサーが取り上げられて、監督には全く触れられてないんだろうと確認してみたところ、なんとユー・フェイ監督はまるきりの新人監督。大きなゲーム会社の偉い人だったそうで、これが初監督作品だというのです!全くの初めてで大物二人と。こんなお金のかかりそうな映画を。なんというハートの持ち主なんでしょう。
そして本編。映画が始まってからそういえばそうかと認識したのですが、や、役所さんが英語と中国語を流暢にしゃべってる。。すごい。ストーリーは英語と中国語で進んでいくので、画面の下に英語字幕、右側に縦書きで日本語字幕。頭が忙しいやん!、、と思いましたが日本語字幕だけ読めばいいので関係なかったです。
役所さんの英語と中国語に気をとられているのも束の間、冒頭のエピソードからえっ!? と驚くアクションシーン。隊長の指示に逆らうじゃじゃ馬娘、チャライ操縦士、大規模な雪崩、ヘリから手を伸ばして、、ここで死んでしまうの!?という展開であっけにとられました。
しかし何事もなかったかのように本筋に入っていきます。そこの細かい説明は省くのね!とまた驚き。色々な説明が省略されてザクザクと物語が進んでいく上に、はいこの人が犯人です!という設定も明らかなので、あれはどういう意味?この背景は?というような裏の心情を深読みする必要もなく、話はわかりやすいです。
エベレストでのシーンの数々では、ひとりツッコミが止まりませんでした。
(高所登山でそんなに走れないって!)
(高所登山でそんな叫ぶ元気ないって!)
(高所登山ではもう死んでるし!)
監督は標高の高い山を知らない人なのか、、、ではない。登山もやってきているしエベレストに登ったこともあるという。何故、なぜ、こんな。というモヤモヤした気持ちで観ていましたが、ふと我にかえりました。そうだ、わかった上でやってるんだ、そもそもリアリティは必要ないんだと。これは「アクション映画」であって「山岳映画」ではないのだと。
そうなのです、これは私が勝手にイメージしていた「山岳映画」ではなかったのです。山の映画といえば、リアルで厳しくも美しい映像、ギリギリ極限での精神世界、そして深い感動、を勝手に想像していた自分があまりに勝手すぎたのです。監督は冒頭で見せてくれていたのに。予告動画でも完全にアクション映画だって見せてるのに。
そこが腑に落ちてから、モヤモヤはなく落ち着いて観ることができました。しかしひとりツッコミは続きます。
(このワイヤーアクション、、、いる?)
(このキラキラ、、、何?)
(装備の協賛なかったのかな、、、)
(昭和っぽい、、、昭和ロマンス、、)
話が進むにつれてますます現場は荒れていき、ちょっと引くくらいの血も流れるアクションと逆転劇が繰り広げられます。そこの説明省くのね!という驚きもまだまだありますが、もう慣れました。安心してハラハラドキドキ。
この映画を観たからといって、安易に雪山に行く登山者が増えるとか、だから登山は危険なのだといった議論は起こらないと思いますので、そこも安心して観れます。後でチラシを見たら「史上空前のスケールで描くスペクタクル・エンタテインメント!」ということで、隅々まで見ても、山の映画だなんてどこにもひとことも書いてありませんでした。ですよねー。
舞台挨拶を見て
2019年東京国際映画祭でのワールドプレミアということで、出演者、監督、プロデューサーが揃ってお披露目だったのですが、女性隊員役のチャン・ジンチューさん、パイロット役のリン・ボーホンさんともに、役所さんの俳優としての振る舞いに感動した話をしていました。27時間ワイヤーでつられっぱなしの撮影で、役所さんがすごいアザだらけになっていたのに、それについて不満も何も言わなかったとか、リハーサルに役所さんだけ台本を持たずに全部頭に入れて参加していたとか。
役所さんはニコニコと謙遜しつつもユーモアある挨拶で、外に発散するオーラではなく内に引き込まれるような存在感。ちなみに別の機会に渡辺謙さんを見たことあるのですが、外にオーラがあふれるケン・ワタナベでした。映画の中でも、役所さんのシーンだけズシッと何か重さを感じる空気。特別にファンというつもりはなかったのに、じーっと見てしまいました。何なのでしょうこの魅力。現場ではリン(林)さんのことを「はやし君」と呼んでたそうです。マイペース。
ヒロユキ・サナダ、ケン・ワタナベだけでなくコウジ・ヤクショも、これからもっと海外映画に出演するのでしょうか。すでに土台を築いたプロのチャレンジとその裏の途方もない努力に、あー自分も頑張らなくちゃ!と焦りにも似た思いを感じつつ帰路についた次第です。ありがとうございました。
公開日:2019年11月15日全国ロードショー