『ランドネ』114号の特集は「50人の山仕事インタビュー」。
(特集内容はコチラのランドネさんのページをCHECK!)
誌面では、発行人である山田と編集人である木村の対談という体裁をとっていますが、実はその2人の話の間にはランドネ編集長である佐藤泰那さんがいて、実におもしろい鼎談になっていました。
頁数の関係で誌面には掲載できなかったインタビュー内容を全4回シリーズにてお届けしてまいります!
誌面になる前のライブ感を伝えるために、内輪感満載の雑談部分もあえて落とすことなく大公開!(笑)
全文2万字超の長文なので、お時間あるときにどうぞ。きっと明日からの山登りを勇気づけてくれるはず! やっほー(^^)
◆◇登場人物◇◆
佐藤泰那 さとう・やすな
KUKKA代表、『ランドネ』編集長。エイ出版社を経て、2020年春に独立、「アウトドアを好きになった人生を、より豊かに」をテーマにKUKKAを立ち上げた。http://kukka-moi.com/
山田 淳 やまだ・あつし
(株)フィールド&マウンテン代表取締役社長。2002年5月、エベレスト登頂。2010年2月、同社を設立、登山人口の増加と安全登山の推進に尽力している。
木村和也 きむら・かずや
編集者、稲作農家。山と溪谷社を経て、『山歩みち』の創刊に協力、現在、同誌編集長。活動拠点である新潟では、初心者向けのクライミング講座を開催、登山活動の普及に努めている。
――まずは〝型〟を身につけてほしい
山田:なんかすごい不思議なのはさ、日本の山って、例えば北アルプスでビーサン履いてる人いないよね。
木村:いないね。
山田:ビーサンで登る人がなんでいないんだろって。何でクロックスで登るひといないんだろうって。
佐藤:山小屋の方はクロックスで登っているの、よく見る気がします。
山田:そういう自由度があってもいいのにねって思うんだけど。誰だっけ、山野井さんがスニーカーで登ってたら周りのおじちゃんにそんな靴で来ちゃだめよって怒られたって(笑)。すいませんっていったらしいけど。
佐藤:森山憲一(※山岳ライター。元『ROCK & SNOW』編集長)さんも書いてましたよ。
山田:そうそう、森山さんが言ってた。まさにそれだって思っていて。僕もクロックスで山に登ってて怒られたことあってさ。そのときはガイドで行っていて、お客さんの靴が壊れたから、お客さんに靴渡して僕がクロックスで登ったんだけど。だけど、クロックスで登れるくらい鍛えてる人が、スポルティバの靴じゃなきゃ登れない人に怒られるっていう不思議な状況が起こるんだよね、山ってね。そんな不思議なことが起こるの日本の山だけなんだけど。だから固定概念決まりすぎてるおもしろくなさはあるよね。
木村:ちょっと話題をサンポに戻すと、33号で小屋泊テントステイの提案をしたのだけど、例えばテント泊ずっと予定してて、どうしても暴風雨で小屋に泊まることだってあるわけでさ。別にそんな不思議な使い方じゃないんだけど、あの特集読んだ読者の多くが、そういう使い方があるのかって気づきのメールがいっぱい来たんだけど、それって、気づきっていうか昔からそれはアリだったんだよって話であって。だからそういうのが引っかかるところかなと。
クロックスでじゃあどこでも登っていいとか、誰でも登っていいなんて1ミリも言うつもりはないけれど、別にクロックスで登れる人もいるし、登ったって別にいいんだよって話であって。それを頭からダメって言うのって、じゃあなんでダメなのって話になっちゃうよね。
佐藤:だから、『山歩みち』のルートガイドだけじゃなくて、伝えることだけじゃなくて、こんな人もいるんだよっていうのも伝えるのを大事にされてるんですね。
木村:そうですね。次号36号で取り上げるひとは誰かって言ったら、田中幹也さんなんですね。田中幹也さんってじつはいわゆる山の世間一般からいえば、とんでもないこといろいろする人で。そういう人の存在を知ってほしいんですよ、多くの読者に。世の中いろんなスタイルがあって、いろんな人がいて、それにはそれなりの理由があって、そういうことを『山歩みち』を通じて表現 できればと思っています。
佐藤:田中幹也さんて、ヤマケイで四角友里さんの書評を書かれてるの見たことあって。それがすごくおもしろくて。そういう正しいとされる山登りじゃない、クリエイティブな山登りをしてる人になかなか出会いにくいって状況ありますもんね。だから、『山歩みち』は、読者の今の関心に合わせた情報じゃなくて、一歩先の情報というか、先輩だから見えている世界を伝えることで導いてる部分があるんでしょうね。
山田:それは、今回のコロナの話とすごく似てると思っています。豊かな社会、豊かな業界って多様性があることでもあるよね。今回のコロナに対して、一様に登山者が同じ方向を向いたらそれは計画経済だから。
ただ、登山ってやっぱり究極的にいえば遊びなので。もちろん、レジャーだからといってただ楽しめばいいっていうのとは違っていて。お勉強でも仕事でもなくて、遊びなのでどこかで遊びの部分がないと、楽しくないと思うんだよね。だから、もちろん基本を伝えることは大事だし、型ができる前に型潰しちゃうと、型なしになっちゃうので。型をひとつ伝えることってもちろん大事なんだけど。その型を伝える以上に大事なのは、型に収まることが全てではないっていうことを伝えることだと思ってる。
それは多分木村さんとも一致している部分だと思うし、逆に言うとYamakaraの企画担当とかはそこまで登山をずっとやってるわけじゃないから、その領域まで来てないから、僕が型を崩しにいかなきゃいけないし。そこは相手によって僕の役割が変わってくるかな。
例えば、多くの屋久島ツアーでは登山中にウォータースライダーなんてしないじゃん。Yamakaraのツアーではそうした遊びをどんどん取り入れていっているし、それこそが山の楽しさなのに、型を決めて登頂することが楽しいんだと思い込むみたいな。それでいい景色が見れることが楽しいんだっていう世界観のだけに押し込まれている。もちろんその世界観の人もいていいんだけど、もっと多様性があるべきなのに、ちょっとひとつの価値観に収束しつつあるかなって気がして、この業界自体が。
だから、沢がようやくちょっと流行ってきたのかな、そんな感じがするのはいいことだと思ってるし。結局沢っていうとみんな丹沢のやさしい沢に行って、水遊びして帰ってくるみたいになってるから、もうちょっと本質的なところからスタートしてほしいなって思ってたりもする。赤木沢からスタートして、もっといろんなところ行きたいって丹沢で練習するのが、積み上げ思考の本質なのよ。
この経験積んだら次のこんなことができて、高尾山行って、陣馬山行って、ようやく八ヶ岳に行って北アルプスのどこか行って、でも劔は夢に思い描いているみたいな50代半ばくらいの人たちって、実際に劔行こうとしたときは結構体力落ちてるじゃんって話ってよくあるよね。だったら、スタートから劔に行けばいいんだよって思って。劔に行ってから老後に高尾山楽しめばいいんだよって思ってたりするんだよ。そのときに思い切り背中押すのにガイドが役に立つんだったらうれしいなと。『山歩みち』のコースガイドがここだったら行けるんだって、行ってみようかなって思ってもらえるきっかけになったら楽しいと思う。
――一点突破で世界は開ける
佐藤:網羅的に学んでもらうってことじゃ、どっちもないんですね。
山田:そう、網羅的に体系的にっていう思考がすごく強いんだよね、これなんだろうね。学校で学びすぎたのかな。
木村:高学歴なお二人を前にして(笑)。
山田:そうだよね、学校で学びすぎたのかなって言っている相手より僕の方が学校ですごい学んだはずなんだけど(笑)。でも、最近若手ガイドに対しても思うよ。若手のガイドをめざしてる子たちも、網羅的に体系的に学びたいってすぐ言う。
木村:そんなのできるわけないじゃん。
山田:網羅なんてしようとしたら、一生かかるってことに気づいてないんだよね。ヒマラヤと沢とバックカントリーと、すべてのことを網羅的にやろうとすると、一生かかっても無理なんだよ。
どこかで本質的に自分のやりたいこと決めなきゃいけないし、自分の攻め所決めなきゃいけない。それは、自分にとってどれをフィットするかという感覚的なもので、それが決まったら、後はそこに向かって必要な技術や経験、知識を積み重ねていく、という感じ。
だから、フリーもやって沢もやってアルパインもやって本チャンもやってハシゴもかけられるようになって、バックカントリーもやってヒマラヤにも行きたくて高所もやりたくて、高所でアルパインもやりたくてビッグウォールもやりたい、みたいな人。それ全部できたら、スーパーマンだよ、みたいな話。
でも、それができた時代もあるんだよね。近藤謙司さんの時代とかそれに近かったんだと思う。けど、今はもっとそれぞれが専門的になっちゃって、もうできないんだよそれは。それをやろうとすると、全部ちょっとずつかじったおもしろみのないのが出来上がるんだよ(笑)。
木村:出たな、ヤマダ節(笑)。
山田:その意味でいうと、ガイドの目指す姿としては彼らの位置づけは、〝オールドジェネレーション〟なんだよね。網羅的にある程度できちゃうんだよ。だけど、どれかにどハマりしたかって言うと、山野井さん(※山野井泰史さん。日本を代表する登山家)みたいに高所にどハマりしたわけでもなくて、ユージさん(※平山ユージさん。1989年、日本人初のワールドカップ優勝。フリークライマー)みたいにフリーにどハマりしたわけでもなくて。全部器用にこなしてるんだけど、じゃあなんの人ってなったときに、単なるガイドさんってなっちゃうという面が少なからずあるんだよね。
近藤さんみたいに高校・大学からガンガン山をやって日数稼いでいる人たちが、それでも専門性を決められないというのに、専門性も決めずに第二新卒くらいでやっぱり山好きだからガイドになりたいって言う30代40代が、今さら何千日かけたって無理だよね、体系的に網羅するというのは。なんてシビアな現実を言うから、僕は厳しいって言われるんだけど、本当のことだから無理って言っちゃうから。
でも本質的にフリーやりたいのかアルパインやりたいのか。アルパインでも雪のアルパインやりたいのか、岩のアルパインやりたいのか、アイスやりたいのかによってそれはもちろん全部かじればいいと思うけど、自分の専門性というか、なにが本質的にやりたいことなのかって決めていかないとできないよね。一点突破したら全部横展開できるから。なんだけど、どれも突破できない若手ガイドさんが多いなって気はする。
そういうガイドさんが多いから、体系的にすべてのことをかじりたいみたいなお客さんが多い。だからフリーを真面目にやらないんだよ。フリーを真面目にやる人が極端に少ない。というのは、フリークライミングってできない自分と向き合わなきゃいけないから。沢登りでさえできる自分でいられるんだよね。よっぽど天候以外で登れない理由って、バテたけど結局行けたみたいなところがほとんどじゃん。縦走ってまさにそうで、登山のなかでできない自分と向き合わなきゃいけないって、フリークライミングくらいだと僕は思っています。でも、それがみんなすごい下手、だから成長しない。だけど成長しないって選択肢もあるから、別に成長しなくていいんだけど、だけどあれもこれもこれもやりたいけど、できないことをやるのは嫌だから、できることだけやらせてって言う人多いかな。
木村:だからメンタリティとして網羅主義であって中途半端。なにかの専門性を持つと一点突破で苦しい思いを誰しもするわけだよね。でも、それを越したときの喜びとか世界の広がりって確実にある。
山田:そうだよね。だから本当は最初の山と向き合う分、いわゆる型にはまった部分じゃない遊びの部分ていうのを伝えたいんだけど。その先の一個できないことができるようになる瞬間の楽しさっていうのを伝えたいんだよね。
木村:そこなんだよね、まだできないっていうところの楽しさ。
山田:でも、それが努力じゃなくて、ただ0から1になったからできるようになったものをみんな成長だと勘違いしているんだよね。例えば、テント泊ができるようになったとか。でもさ、それはできるからさ、単なる思い切りだけの話だから。やり方を知っただけの話で。それは0回目から1回目にやったら誰でもできるようになる話だから。
そのこととと、沢登りの5級が登れるようになるとか、沢でルートの判断ができるようになるとか。フリークライミングで一つ高いグレードが登れるようになるとかと、ちょっと意味あいが違うんだよね。できないところに努力を加えてできるようになるってのが、勉強だろうが遊びだろうが、なんでもそうなんだけど、それが楽しいはずなんだけどそこまで到達している人は極端に少ないよね。
木村:その通りだと思う。
山田:ただ、そこまではサンポの役割ではないから、今回の話からちょっと違うかなって感じがするけど。ただその一歩手前の新しいものをちゃんと遊びを持って自分で考えて対処するっていうところは、サンポで伝えたいところかな。今Yamakaraではできないことと向き合うことを試行錯誤して伝えようとしている。
佐藤:Yamakara のツアー、北海道のやつ参加したいなと思ったんですけど、うまくタイミング合わせられなくて。タイミングをみて参加させてください。ところで次は何号になりますか。
木村:次は36号。遅れてますが、10月末発行を予定。
佐藤:その先ってどれくらいまで企画って決まってるんですか。
木村:いや全く決まってないんですよ。来年はこんな感じかなくらいしか。
佐藤:結構変わりますよね。キムカズさんのフェイスブックとかでも特集がごろっと変わったりとか、小企画もごろっと変わったりとか、わりと直前に。
木村:そうですね、今年に関してはコロナもあり、発行直前でガサッと変えました。それができるのがフリーペーパーの良さでもあるし、スポンサーも含めて、そうしてもいいよって言ってくれている人たちが応援してくれるからできることであります。
そういうものも含めて、読者や業界からの応援をこの何年間はすごく強く感じています。それはもちろん、好き勝手にできるってことじゃないです、全然。好き勝手じゃなくて、すごく悩ませてくれる時間を許してもらっている感じがある。雑誌づくりをずっとしていると、どこかで、いいや、めんどくさいからこれでやっちまえ、ってなるようなことが過去の経験でいうと多かったのですが、サンポはどちらかというと書籍のつくりに近くて、薄いけどかなり練っている。一行一行真剣に書いてる。だから伝わるという面もあるかなと。
佐藤:最初の一行から最後の一行まで読んでもらうものとして作るのか、ナナメ読みしてもらうものとして作るのか、息抜きに読むものとして作るのか全然違いますものね。
木村:意外と作り手ってそこまで意識してない人もいるんじゃないかなというのも感じる。
佐藤:どういうときに読んでくれてるんだろうっていうことはそれぞれに考えているような気がするんですが、最初の一行から最後の一行まで読んでもらうものとして作っている雑誌は結構少ないなって最近思います。
木村:事実上あれだけのページ数、字数があったときに、無理だよね、最初から最後まで読ませるって。
佐藤:雑誌のなかでこの企画とこの企画は最初から最後まで読むだろうな、これは気が向いたら読むだろうなとかは、『ランドネ』にはあります。
木村:たぶんそういう濃淡があるのがいわゆる雑誌であり、そこがよさであり、サンポにはないところだと思います。
(完)
取材日=2020年9月7日
佐藤泰那
さとう・やすな KUKKA代表、『ランドネ』編集長。エイ出版社を経て、2020年春に独立、「アウトドアを好きになった人生を、より豊かに」をテーマにKUKKAを立ち上げた。http://kukka-moi.com/
山田 淳
やまだ・あつし (株)フィールド&マウンテン代表取締役社長。2002年5月、エベレスト登頂。2010年2月、同社を設立、登山人口の増加と安全登山の推進に尽力している。
木村和也
きむら・かずや 編集者、稲作農家。山と溪谷社を経て、『山歩みち』の創刊に協力、現在、同誌編集長。活動拠点である新潟では、初心者向けのクライミング講座を開催、登山活動の普及に努めている。